1 水稲直播って何?

【 回 答 】

「圃場に水稲の苗を植えるのではなく、水稲種子(種籾)を直接圃場の中に播く栽培方法。(農研機構編著 『最新農業技術事典』、2006)」です。広い農地(圃場、ほ場)ではコムギ、オオムギ、トウモロコシ、ダイズや陸稲(りくとう、おかぼ)などがこの直播栽培で生産されます。保護されたイネの苗を使う「機械移植栽培」に対して、ほ場で種籾の出芽・初期生育の期間を主な対象に水稲直播栽培用の栽培・管理技術を活用します。

「丈夫に育て!」直播栽培水田で生育を始めたイネ苗(左:水のある田に播種した湛水直播栽培、右:水のない田に播種した乾田直播栽培)

2.水稲の移植と直播の違いを簡単に言えば?

【 回 答 】

直播では本田に種子を直接に播種するのに対して、移植では予め別の場所で生長させておいたものを苗として植えます。移植では初期生育をよい条件で保護することになりますので、競争力が小さい植物に向いた方法と言えます。稲は低温や乾燥に弱く、主要穀類(稲、麦、トウモロコシ、雑穀等)で移植栽培を行うのは稲だけです。従って直播で稲を順調に生育させるためには初期生育を促進させる方策が重要になります。

3.直播と移植の栽培法で米の味が違うことはあるのですか?

【 回 答 】

移植栽培の米に比べ、直播栽培の米の味が劣る、あるいは優るとは必ずしも言えません。米の食味には品種、土壌や気象など環境条件、水管理や施肥方法、収穫・乾燥・保存方法、そして炊飯方法など様々な要因が関与します。このように多数の要因が関係するので、どちらの栽培法が良い悪いとは一概に言えません。一方、米に含まれる成分の中でタンパク質は米の硬さや味に大きく関係し、一般に肥料を与えすぎてその含有量が多くなると食味は低下します。どの栽培方法を選ぶにせよ、例えばタンパク含有量を適度な範囲に抑える施肥や水管理を行うなどして、食味の良い米を作ることが大切です。

4.水稲直播の播種はドローンでやっているの?

【 回 答 】

現在、世界のあらゆる分野で大活躍のドローンは、水稲直播でも普及取り組みが始まっています。農林水産省では、農業用ドローン普及計画(2019年)を立ち上げ、例えば機械の入りにくい中山間地等での直播栽培でも威力を発揮できるとされています。
農林水産省HP <https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/pdf/hukyuukeikaku.pdf>
また、石川県農林総合研究センターでは、ゆくゆくは1台のドローンで水稲栽培全般
についての解析、直播、農薬散布等まで1台でできるようにする計画です。
石川県農林総合研究センターHP <https://smartagri-jp.com/smartagri/1078

5.直播の読みは「ちょくは」、「ちょくはん」、「じきまき」、「じかまき」?

【 回 答 】

直播の意味は「田畑に直接種をまくこと」です。読み方は、ネットの「コトバンク」で<直播の読み>を検索すると、〈ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「直播」の解説〉があり、それによると「じかまき」「じきまき」「ちょくはん」の3例があります。昭和の時代は主に「じかまき」か「じきまき」を、平成以降は「ちょくはん」或いは「ちょくは」の読みが多くなったようです。ちなみに現在、当研究会では、「ちょくは」を主体に使っておりますが、「ちょくはん」とする場合もあります。
コトバンク <https://kotobank.jp/word/%E7%9B%B4%E6%92%AD-72472

6.水稲直播って、いつ頃から始まりどのように推移したの?

【 回 答 】

稲作が日本に伝わったのは縄文時代後期(約3500年前)で、一般に広まった弥生時代(約2500年前)には直播と移植の両方が行われていたと言われていますが、栽培の安定性から手植えによる移植が主流となりました。

明治時代に入って北海道で湛水直播が一時的に普及しましたが、保温折衷苗代等の育苗技術の普及により衰退しました。その後昭和30年代の高度成長期に入ると農村の労働力不足が顕著になり、乾田直播を主とした栽培が拡大しましたが、同時期に始まった機械移植栽培の影響を受けて栽培面積は急激に減少しました。

直播栽培技術の開発が再び加速されたのは国際競争力強化のための大規模・低コスト化の要請を受けて実施された日本型直播実証事業(平成6年~)からであり、官民一体で直播技術の開発と普及が行われて現在に至っています。

7.現在、水稲直播は世界のどこでやっているの?

【 回 答 】

FAO統計によると世界の稲作面積は1億6215万haであり、地域別ではアジア1億4322万ha(88%)、アフリカ1170万ha(7%)、南北アメリカ648万ha(4%)、ヨーロッパ67万ha(0.4%)および大洋州8万ha(0.1%)となっています。この内アジア・アフリカ諸国以外ではほとんどが航空機で播種する湛水直播や大型播種機による乾田直播等の大規模直播栽培が行われています。アジア・アフリカ諸国においては手植えによる移植栽培が行われてきましたが、産業化により農村の労働力が不足するようになり直播栽培への切り替えが進みつつあります。とくに熱帯アジアでは代かき後に耐倒伏性改良品種の種子を予め5~10mmの芽を出芽させて高密度にばら撒く「芽出し直播栽培(Pre-germinated Direct Seeding)」が行われており、その面積が全体の6~7割に達していると言われています

8.直播栽培をすると雑草が多くならないの?

【 回 答 】

十分な苗立ちを確保できる栽培技術と高性能な除草剤の新規開発もあり、直播栽培だから草が多くなるということはありません。確かに、かつて直播栽培では、苗立ち不良や、除草剤の撒き遅れなどのため、雑草が繁茂してしまう場合が多々ありました。特に除草剤の撒き遅れは、除草剤の処理適期が短かったため、不十分で緩慢な苗立ちとあいまって、頻発する直播栽培の重大問題でした。現在では、落水出芽法や、鉄コーティングによる表面播種など迅速で十分な苗立ちを確保可能な栽培法、イネ播種直後~ノビエ3.5葉期、イネ出芽揃い~ノビエ4.5葉期など、処理適期が長く使いやすい除草剤が開発されており、以前と比べると直播栽培の雑草防除は格段に容易となっています。

9.水稲直播では鳥害やスクミリンゴガイ(ジャンボタニシは俗称)の害が問題になるのでしょうか?

【 回 答 】

直播栽培ではスズメ、カモ類、カラスによる種籾や出芽籾の食害、またスクミリンゴガイ発生地では出芽苗の食害が大きな問題になります。これを防ぐため、種籾が見えないよう土中に播種し水を張る(湛水土壌中直播)、くちばしが届かない深い位置に播種する(乾田V字直播)などの播種の工夫、カモが着水できない淺水にする(湛水直播)、タニシ食害が減る出芽苗の大きさ以降に入水する(乾田直播)などの水管理の工夫があります。また、忌避剤や殺貝剤等の薬剤利用、爆音器利用、鳥が集まる立地を避ける(近隣に電線がある-スズメやカラス、河川や湖沼がある-カモ類)などの手立てもあります。一つの方法で完璧に防ぐことは難しいので、いくつか組み合わせて被害回避することが大切です。

鳥に種籾を食べられた出芽苗(左)と正常な出芽苗(右)。

食べられた苗は田面を浮遊するなど正常に育たないことが多い。

10.直播栽培で使用する農薬は移植栽培と共通ですか?

【 回 答 】

農薬(化学農薬)は、販売と使用を規制する農薬取締法に基づいて、「作物名」ごとに販売者による「農薬登録」が必須です。農薬登録での水稲の作物名は通常「移植水稲」と「直播水稲」に区分されており、「移植水稲」のみで農薬登録された剤を「直播水稲」に使用すると、同一の成分であっても「登録外使用」になります。移植栽培とは異なる、直播栽培でのイネの生育や雑草・病害虫の状態に見合う適用性の確認を経て、「直播水稲」に農薬登録された農薬を使用します。

作物名が「水稲」や「稲」とのみ示される農薬は、農薬登録の内容を十分に確認の上、移植・直播の両栽培で使用できます。除草剤、殺虫剤、殺菌剤、生育調節剤など農薬の使用に当たっては、製品情報やラベルで「直播水稲」または「稲」へ農薬登録済みであることを確認し、登録の内容に加えて「使用上の注意」にも留意して安全使用に努めましょう。