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収穫を前にした直播水稲を見てきました(宮城県JA加美よつば管内)

残暑もようやく過ぎた9月29日、宮城県のJA加美よつば水稲直播研究会にお邪魔し、今年度から取り組まれている水稲品種「つきかり」試作直播圃場、そしてその対照として従来からの「ひとめぼれ」直播栽培圃場を観察、調査して来ました。苗立ち期までの様子は、このページの下部“1.活動報告【令和4年6月:水稲の苗立ち期にいろんな圃場を見てまわりました】”に掲載しています。初めてご覧になる方は、まずそちらを見ていただくと判りやすいと思います。

【直播試作「つきあかり」の成熟期のようす】

JA加美よつばでは、本年度初めて「つきあかり」を直播で栽培試作されています。「つきかり」は「ひとめぼれ」よりやや早生で、食味も同程度と良好、何よりも倒れにくく多収なので最近注目を集めている品種です。とくに業務用米としての人気が上がっています。

そこで、当会ではJA加美よつばならびに同JAの直播研究会会長で栽培者でもある今野氏のご協力を得て、試作「つきあかり」と隣接する「ひとめぼれ」の直播田で成熟期の調査を実施させていただきました。

これらの圃場は5月末の苗立ち期調査で苗立ち数や初期分げつ芽の発生を確認し、両品種の苗立ち密度や葉齢にあまり差が無いこと、「つきあかり」の苗長は「ひとめぼれ」に優るが、第1葉基部の分げつ芽が認められず、以降は分げつ発生を促すような水管理(浅水)にすべきことなどをお示ししました。

その後、分げつ促進のための水管理を実施いただいた結果、6月下旬の観察では、草丈の傾向はほぼ同じで「つきあかり」が長く、下位葉の分げつは「つきあかり」でも問題なく発生していることを確認しました。

・調査の方法

太さが中庸な稲株をそれぞれ20株選び、サンプリングして持ち帰りました。今回は量も少なくそういうことは無かったですが、大量の稲株を抱えてバス停や駅に居ると、「これは何ですか?生け花にするの?」と尋ねられたメンバーもいるようです。たしかに不審に思われるかもしれませんね。

さて、持ち帰った稲株1株ごとに最も長い稈(茎)を合計20本選り出し、稈長(付け根から穂首節までの長さ)、穂長(穂首節から穂のてっぺんまでの長さ)、1穂籾数を計測します。さらに稈から葉身と葉鞘を取り除き、裸になった茎の止葉節から根元に向って繋がる節と節の間(節間)を順に第Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ節間としてその長さ(節間長)を計測しました。

「つきあかり」、「ひとめぼれ」ともに第Ⅴ節間以下は1㎝未満だったので計測対象としませんでした。

基部の節間の太さを知るために第Ⅳ節間中央部の太さ(節間径)をノギスで計りました。サンプリング株をよく見ると、根に近い基部の節から遅れて出てくる遅発分げつの発生に違いがあったのでその数もカウントしました。以下、調査結果と考察を記します。

・個体株の形質について

「つきあかり」の稈長は10㎝程度明らかに「ひとめぼれ」よりも短かく、穂長は逆にやや長めで、1穂籾数は3割程度多く「なりました。これらは移植栽培における「つきあかり」の特徴出ある短稈穂重型を良く示しており、湛水直播栽培でも同様な形質発現傾向となることが解りました(表1、写真)。

また、「つきあかり」の特徴として、多くの株で基部節からの遅発分げつ芽発生が見られました(写真)。

成熟期の基部節からの遅発分げつ芽の発生は、光合成同化産物の穂への転流が終わるころ、稲体にまだ同化産物(炭水化物のうち、分解・転流しやすいでんぷんや糖類など)がある程度残存する場合に往々にして見られる現象であり、シンク容量とソース量の兼ね合いで生ずると考えられています。

今回、「つきあかり」でこの発生が観察されたのは、その品種特性であるほか、さらに多収化の可能性があることを示すのかもしれません。

今回の調査では坪刈による圃場全体での単位面積当たり穂数推定は行いませんでしたが、観察した限りでは「つきあかり」と「ひとめぼれ」の穂数に明らかな差は感じられませんでした。

最終的な全刈収量を見てみないと何とも断定できませんが、個体株の形質では1穂籾数が「つきあかり」でかなり多かったことから、「ひとめぼれ」に比べて多収が見込まれるのではないかと思われました。なお、調査株を見る限り、両品種とも登熟は良好でした。

・倒伏関連形質について

イネの倒伏には稈長のほか、基部節間長の長さや太さ、強度・剛性などが関係します。「つきあかり」は耐倒伏性が「ひとめぼれ」に優る一般的特徴がありますが、これは主に表1で示される稈長が短いことの寄与が大きいと考えられます。今回、基部節間(第Ⅳ節間)の長さを見たところ、「ひとめぼれ」との差はほとんどありませんでした(表2)。

一方で、第Ⅳ節間の太さは「ひとめぼれ」よりやや太いことがわかりました。この点も耐倒伏性の強さに影響すると推察されますが、さらに詳しい調査が必要と考えました。なお、圃場全体では「つきあかり」に倒伏は認められず、「ひとめぼれ」ではごく一部でなびき程度のものが見られた程度でした。

【その他圃場の状況】

帰路、D氏のひとめぼれ直播圃場に立ち寄りました。こちらは6月の研修会時に視察した際、苗立ちや初期生育、雑草管理がうまくいっていた圃場です。今回、成熟期に至っても特に問題はなく、順調に収穫期を迎えていました。一部になびき程度の倒伏が見られたが、これとてむしろ多収の証(あかし)であるように思いました。

D氏は隣接するひとめぼれ移植圃場の刈取最中でしたが、収量はまずまずとのことでした。この日時点で地域の移植ひとめぼれ収穫が進みつつありましたが、JA職員、今野会長、D氏の話によれば、本年の収量は平年並みであるものの玄米品質が素晴らしく良く、一等米比率99%以上の検査状況であるとのことでした。

品質の良し悪しは食味にも大きく影響します。今年のJA加美よつばの米はとびきり美味しいお米が期待できそうです。

令和4年8月:秋田県大仙市で現地研究会を開催しました

当会では、直播栽培技術の成果や情報について、主に会員向けに提供する研究会を開催しています。この2年間はコロナ禍の影響で開催しておりませんでしたが、今年度は、十分な感染防止対策を講じ、農研機構東北農業研究センターで開発・普及が進められている「水稲無コーティング種子代かき同時浅層土中直播栽培」をテーマとして現地研究会を開催しました。以下、概要をお伝えします。
主催:水稲直播研究会、 共催:農研機構東北農業研究センター
日時および場所:令和4年8月29日午後、秋田県大仙市

【播種実演ならびに現地実証圃の視察】
正午過ぎ、秋田新幹線等でJR大曲駅に集合した参加者約40名は、2台のバスに分乗し、東北農業研究センター大仙研究拠点、その後に市内2カ所にある現地実証圃場に向かいました。

①東北農業研究センター大仙研究拠点所内圃場での播種実演

「水稲無コーティング種子代かき同時浅層土中直播栽培」は無コーティングの「催芽種子」や根出し処理を行った「根出し種子」を市販化されている専用播種機で播種する直播方式です。詳細は下記のwebサイトを参照ください。
→水稲無コーティング種子の代かき同時浅層土中播種栽培マニュアル ver.6 | 農研機構 (naro.go.jp)

播種実演では、幅220cmのハローでの仕上げ代かきと同時作業で播種ユニット3条×2基の一つを条播、もう一つを散播に分けてその違いが見られるよう播種しました。播種ホースから落下し土壌表面に落ちた種子は、後付けの鎮圧ローラーで摺り込むように土中浅層に埋め込まれます。本方式は鉄粉やカルパー粉粒剤のコーティングが不要なのですが、その分、土壌の浅い位置に種子を播種することが求められ、ここがこの方式の大きなポイントになります。また、出芽・苗立ち向上のため「根出し種子」を用いることもポイントです。東北農業研究センター水田輪作グループ長国立卓生氏による作業工程の説明、「根出し種子」サンプルの展示があり、参加者からは荒代かきのやり方(基準)、土壌表面の水分状態、鎮圧ローラーの仕様、作業速度増加の可能性(現行は 2km/h)等についての質問が出され、意見交換が行われました。実演圃場は直前に立毛稲を青刈りして準備いただいた関係上、残渣が目立ち、決して播種に最適な状態とは言えませんでしたが、良好な覆土、不十分な覆土の両方の状況を見ることができ、視察の点からはかえって良かったようです。

②現地圃場見学

「大仙市横堀」進藤耕助氏圃場
東北農業研究センターで育成された多収でいもち病に強く耐倒伏性に優れる良食味水稲品種
「ゆみあずさ」を栽培しています。※品種詳細→ゆみあずさ | 農研機構 (naro.go.jp)
播種量 6kg乾籾/10aで苗立ち本数は123本/10a(推定苗立率52%)。播種後の水管理は10日間湛水し、播種4日目に除草剤プレキープ1キロ粒剤を施用。湛水終了後は7日間落水、再度湛水して播種後20日目に除草剤アクシズMX1キロ粒剤施用しています。稲の生育は7月上旬に最高茎数688本/㎡に達し出穂期は8月12日でした。視察当日は圃場の中央部で一部稲がなびいているのを認めましたが(倒伏指数1~2)、稈長は75cmと短く、倒伏による減収の恐れはないものと判断されました。進藤氏の話ではこれまで「めんこいな」、「秋のきらめき」、「あきたこまち」を栽培してきたが、「ゆみあずさ」に変えてからはいもち病の心配がなく多収で昨年は12俵穫れたそうです。今年は日照が少ないが11俵以上を期待しているということでした(写真参照)

「大仙市高梨」農事組合法人北川目ファーム圃場
同ファームの藤原 稔氏から農事組合法人の説明がありました。平成19年の水田経営安定対策制度を契機に結成、規模拡大により農業経営の安定化を図るとともに複合経営にも本格的に取り組み、農産物の収入アップと組合員労力の最大限活用で対価還元して潤う事業を展開することを目的としているとのこと。加工米含む水稲作のうち5.6haが直播栽培で、「ゆみあずさ」の鉄コーティング直播(2.3ha)と無コーティング直播(3.3ha)を実施。無コーティング直播のメリットとしては、圃場が軟らかく田植え機が沈む圃場においてもトラクタによる播種作業が可能であることだそうである。「直播面積拡大の可能性は?」という質問に対しては、水稲作への取り組みについては米価の低迷、最近の肥料価格の高騰等の条件もあり現在考慮中という回答があった。このところ食料品の価格高騰が著しいが、そんな中で価格的に比較的安定している米についても、引き続き低コスト化の維持をお願いしたいところですが、なかなか悩ましいところと感じました。
室内検討会場に移動する途中、「あそこ、あの圃場もうちのファームの直播圃場」と藤原氏から声がかかりました。

【室内検討会(大曲エンパイアホテル会議場)】
現地研究会はたいてい2時間程度の現地見学のあと、室内で同時間程度の座学を行います。今回も、市内のホテルにてパワーポイントスライドを映すなどして講師の方に技術説明を頂き、参加者からの質問にお答えいただきました。

④ 水稲無コーティング種子代かき同時浅層土中直播栽培技術について
ⅰ 水稲無コーティング種子代かき同時浅層土中直播栽培技術の概要
東北農業研究センター水田輪作グループ長 国立卓生氏
水稲無コーティング種子代かき同時浅層土中直播は別名「かん湛」と称し、コーティング作業を省略するとともに鉄コートのような表面播種とカルパーによる土中播種の中間に位置づけられる耐倒伏性品種を多く播いて安定多収を実現する技術である。播種は専用の播種機を用いハローによる代かき後の土壌表面に条播あるいは散播し、鎮圧ローラーで種子に泥を塗り浅層土中播種を実現する。作業精度を高めるためには播種時の土壌条件が重要であり、水面割合が50%程度の時に播種することを目途としている。種子は鳩胸催芽種子あるいは根出し種子を用い、葉いもち予防のためにルーチンシードFSを種子処理する。施肥量は移植並であり直播専用の肥料を使う。播種量は、はじめは7kg/10aとし栽培に慣れてきたら次第に減量する。播種後の水管理については播種後12~13日落水した方が苗立ちがよくなる。雑草防除は播種後落水の場合は出芽が揃った1葉期に一発剤を施用、播種後初期湛水の場合は播種時または直後に初期剤を施用し、落水―湛水後に一発剤を施用する。2021年現地の全刈収量では500kg/10a以上が確保されており、耐倒伏性多収品種の場合は700kg/10a越えも実現されている。経営計算で「あきたこまち」の移植栽培と「ゆみあずさ」の無コーティング直播を比較すると後者が前者より利益が16,000円/10a増加したという結果が出ている。生産者の感想では、良い点として、種子準備が簡単、快適、沈車しない、一人で作業できる、出芽が早く安心、悪い点としては、条間が広い、播種時の水量調節が難しい、鳥害、播種に気を使う、播種同時施肥・施薬ができないことが挙げられている。

ⅱ 苗立ちを向上させる「根出し種子」技術
東北農業研究センター水田輪作グループ 伊藤景子氏
これまでの経験によると無コーティング種子代かき同時浅層土中直播における苗立ち率は約65%でカルパー(73%)よりは低いが鉄コート(66%)と同等である。しかしながら低苗立ちの場合40%になったこともある。苗立ち不良になりやすい場所としては水口や畦畔際の漏水箇所や圃場内の排水不良箇所が挙げられており、多様な圃場条件における苗立ち安定技術の開発が望まれる。当グループでは根出し種子を開発して現地試験を行った結果、催芽種子に比べて2割程度苗立ち率が高まった。根出し種子の優位性は初期生育においても認められ、草丈、葉令、個体乾物重が催芽種子や鉄コート種子より大きくなった。出穂期・収穫期の調査では根出し種子の出穂期は鉄コート種子より4~5日早く、催芽種子より3日早まり、倒伏程度、収量、登熟歩合は同程度になった。根出し種子の作出法としては乾燥籾を15℃で5日間浸種した後に催芽器(30℃)で20時間催芽後に脱水して被覆して24時間置いて発根させるのが一般的に行われているが、浸種後の種子を蒸気式育苗器(30℃)で40時間処理することによっても作出できる。現地規模量の種子処理を行う場合、育苗器容量56箱・14段の場合は最大180kg(3ha播種相当量)処理可能であるし、催芽器容量150ℓの場合、最大60kg(1ha播種相当量)処理可能である。根出し種子適用の現状は苗立ちに不安のある生産者を対象とし、普及地域は寒冷地(秋田県、岩手県)、普及面積は39haである。今後の課題としては根出し種子の大量保存方法の検討がある。

ⅲ 水稲無コーティング種子浅層土中直播栽培の生育特性と収量性
東北農業研究センター水田輪作グループ 今須宏美氏
秋田県大仙市の14箇所の現地圃場で2019~2021年に実証試験を実施した結果から無コーティング種子代かき同時浅層土中栽培の生育特性と収量性について取りまとめた。初期生育の特性として出芽が早いことが挙げられる。播種後14日で1葉期となり、30日後の平均分げつ数は0.9~1.3本/個体となる。茎数の推移に関しては、播種量6~7kg/10aで苗立ち数100本/㎡、穂数500本/㎡が得られている。生育経過を移植と比較すると、茎数は多く草丈は大きめ、葉色は移植並で推移する。稈長と倒伏との関係では移植栽培の標準稈長を超えると倒伏の危険がある。出穂期は移植並~3日程度遅くなる。収量及び収量構成要素の特徴としては、穂数・籾数が多く、移植並収量~多収が得られる。品質の特徴としては整粒歩合が高く、タンパク含量も基準値以内であった。収量性の基準として600kg/10aを得るためには籾数35,000粒/㎡、穂数500本/㎡が必要なことが明らかになった。これを達成するための施肥量は移植と同程度であり、「あきたこまち」では窒素7~8kg/10a、耐倒伏性品種では8~10kg/10aと見積もられた。

ⅳ 実践している生産者からのコメント

進藤耕助氏:
無コーティング種子代かき同時浅層土中播種の良い点と悪い点について生産者の立場から補足したい。
良い点:田植え機だと沈車する圃場でも播種が可能、種子の補給が1回/haなので一人作業が可能、出芽が1週間と早く(コーティングでは2週間)雑草との競合上有利である。
悪い点:条間が広いと雑草が発生するが40cm以下なら大丈夫である、播種に気を使う点に関しては鉄コートでは播種部分が見えないが、無コーティングでは見える、播種同時施肥ができない点に関しては全層施肥(耕起時施用)で対応可能である。

藤原 稔氏:
栽培における特徴的な事項について述べる。
いもち病対策:「ゆみあずさ」のルーチンシードFS種子処理により大幅改善、オリゼメートの予防散布より省力と割安を達成しやすい。
根出し種子:催芽後水に浸けて余熱をとって脱水する「芽止め」と湿度と温度に考慮した風乾日数の策定が必要である。
播種作業:移植では4人作業であるが2人作業(播種オペレータ+水管理担当)でできる。
鉄コートとの比較:苗立ちが早く楽、700kg/10aが狙えて生産費が削減できる。

ⅴ 質疑・総合討議

質問
・播種作業に関しては、目標としてどの程度までの能率向上を考えておられるのか。

回答(国立グループ長)
今回紹介した播種機は、ハロー幅が2.2m、2連、6条用播種であるが、それとは別に大規模圃場用に折りたたみ式の3連9条用ハローの播種機の開発も進めている。6条用の作業能率は30a当たり約1時間、1ha当たり3時間ちょっとである。椛木さんから作業速度4km/hはできないかという質問があった。現在の作業速度は播種精度等から2.5km/hとしている。より高速作業となれば、それは水の問題とか、かなりシビアになってくるが、大規模圃場等への対応を考えて改良を進めてゆきたい。

質問
① 当該技術の悪い点として挙げている「播種同時施肥・施薬ができない」について、何か対応を考えておられるのか。
② 悪い点として「播種量が多すぎないか」と感じるがいかがか。

回答:②について(国立グループ長)
まず私から質問②の播種量について。播種量については、まず安定した苗立ち率を平均60%としている。倒伏や種子コストの問題はあるが、前任者の考えを踏まえて厚播きとしている。他の点播・条播等では、良食味品種を前提として3~4kg /10aであろうが、過去の全面播き散播ではどうしても株間が広がるということもあり、平均6kgであった。本技術では、例えば均平の取れていない圃場条件等による苗立ち率の低下でも苗立ち本数を確保するために、あえて多めの播種量として平均6kg前後としている。

回答:質問①について(今須グループ員)
播種同時施肥・施薬施肥について。まず施肥については、今年度広島県の直播で実績があり、トラクタの前に施肥ホッパをつけてやっていた。ただ、播きムラを考えると、先ほど進藤さんがおっしゃっていたように、あらかじめ全層播きするのが安全と考えられます。また、代かき同時播種作業でさらに同時施肥となると、マーカー操作に施肥作業が入ると複雑になりすぎるなど、生産者の方と話をしても問題があるのではと考え、現時点では取り組む予定はありません。ただ、同時施薬作業については生産者の要望も多いので検討中であり、今後の取り組みについては考えてゆきたい。

コメント(直播研究会・森田委員)
除草剤の同時施用について補足。移植では田植同時散布が歓迎されていますが、剤の残効性をある程度犠牲にしています。直播栽培でも播種同時散布の可能な剤がありますが、雑草を抑えるべき期間が移植栽培より長いので、直播栽培作業での同時散布では、どうしても薬剤の残効性が切れやすくなることが問題になります。会員企業で出席されている協友アグリさんからコメントはありませんか。
コメント(協友アグリ)
やはり直播作業同時の除草剤散布は田植え作業同時とは異なり相当過酷な条件となる。今の除草剤は、水の力で全面に広げて、その後に層ができるという作り方であり、代かき播種同時の場合は水がない状態であるから相当に過酷な条件であり、生産者の要望にスッと応えられる除草剤はないというのが現状です。ただ、今回のような状況でも使用できる除草剤への要望など生産者からの声を拾って、メーカーとして前に進めることは考えられますので、ぜひ引き続きこのような研究会でご協力を頂ければ有難いのでよろしくお願いします。

質問 根出し種子を考えたきっかけは何でしたか。

回答(伊藤グループ員)
きっかけは、ある生産者の方の失敗事例からです。種子の準備をしていた時に発芽はしていないのに発根している状態になったが、それを播種しなければならない状況だったので播種したら、なぜか苗立ちは大変良かったという結果でしたので、それがきっかけでした。

質問 根出し種子は単に苗立ちが良いことだけではなく、もっと奥が深いのではないか? 私が以前やった表面バラマキでは、成長後の株はグラグラしていた。今日の見た水田では皆がっちりしていて、根の張りが良かった。水稲の根は水があると伸びず、下が乾いていると伸びる。根出し種子はそういうところが効いているのではないか。発根や分げつ発生の問題、それと出穂期が早くなることなどの観察等をさらにされたらいかがかと思う。

回答(伊藤グループ員)
根出し種子を圃場に播種した後の種子根はほとんど伸びず、代わりに冠根がどんどん出てくる。その辺の詳細な研究はしていない。その後の生育、分げつ数などの調査では、特に他と異なることは無い。生育については、初期生育の葉齢は催芽種子よりも早い。この状況は播種後30日の苗立ち期でもその差は縮まらない。出穂期が早まったのは、生育が早まったことによると思われる。

質問者
移植と同じ日に播種すると、直播では出穂期が1週間遅れるのが定説である。分げつの部位別の発生経過とか、根量とか、を追ってみられたらどうか。最終的な葉数はどうなるのかとか、そうすると何が起こっているかが分かるので、そのようなことを進めて頂ければ有難いが。

回答者(今須グループ員)
移植と根出し種子については「ゆみあずさ」を使って、昨年は同じ日に移植と直播を行ったところ、生育調査では、出穂期は同じだった。一方、今年は移植より5日遅れで播種をしたら、出穂期は1週間以上直播のほうが遅れた。直播は種子の状態よりも、その後の栽培期間の気象条件の影響を受けやすいと思われた。ただ葉齢の調査はしていない。それは気になっているところなので今後しっかり調査してゆきたい。

コメント(司会・森田委員)
先ほど生産者から「もうかる話」ということが出ましたので、東北農研の笹原さんからコメントを
頂ければと思いますがいかがでしょうか。

回答(笹原グループ長補佐)
国立さんの資料20頁が私の作った資料で2020年の北川目の試験データからとったものです。
これは移植「あきたこまち」と直播「ゆみあずさ」の品種が異なるので、批判されましたが、直播には倒伏しない品種でないと本技術の良さは出てこないので「ゆみあずさ」の体系を採用し、そして北川目ファーム様にご協力頂いてこの結果を出しております。ただ、単価は年によって違い、このところ下がっています。最初、「ゆみあずさ」は業務用と位置付けていましたが、今年は加工米と
して位置づけることで、より「ゆみあずさ」は収支の改善が見られる可能性があります。さらに改善する方法としては、一つは倒れることなく増収させること、もう一つは作業効率改善です。机上計算ではありますが、播種作業時間を1ha当たり1.5時間にすることも可能だと思います。

以上で時間が来たので総合討論を終了しました。本技術は足掛け8年の開発を行い、東北地方を中心にすでに180haに普及しているとのことです。現在、折り畳み式代かきローターに対応した広幅播種機の開発も進めており、今後さらなる技術改良と普及拡大が見込まれます。当会としても引き続き情報の把握と皆様へのご紹介に努めてまいりたいと考えます。

【令和4年6月:水稲の苗立ち期にいろんな圃場を見てまわりました】

多くの地域で5月初めごろから直播の播種が始まります。播かれた籾は1週間から10日くらいで出芽が揃い、第1葉、2葉、3葉と出葉が進み、第4葉が抽出するころには第1葉の基部から分げつ(1号分げつ)が発生します。直播栽培にとって、播種後2,3週から1か月のこの時期(5月下旬~6月)が一番大切な時期です。当研究会でも、普及組織、農業団体、農業者の皆様から声がかかり、田植え長靴、カッパをバッグに詰め、東へ西へと走り回る忙しい季節になります。訪ねた現地での活動をいくつかご紹介します。

【長野県安曇野市・有明営農組合】:6月7日~8日

有明営農組合は信濃富士、有明富士とも呼ばれる有明山、そして雄大な北アルプスの常念岳を仰ぎ見る美しいあずみ野(歴史的仮名遣いではあづみ野)にある営農組合さんです。5月上旬に、「播いた田の出芽が思わしくない、見に来て欲しい」との要請を受け、研究会メンバー6名が「あずさ」「しなの」に乗り、松本経由で大糸線穂高駅に集合。さっそく営農組合員の皆さんの圃場に案内していただきました。今年は「コシヒカリ」のカルパーコーティング種子を用いて約13ha、66筆を5月5日から17日にかけて点播播種したそうですが、早い播種日のいくつかの圃場で苗立ちがさみしい箇所がありました(写真1)。

写真1 苗立ちの少ない圃場

苗立ち不良の場合、まず「播種した粉衣種子の健全性」を疑います。すでに営農組合でコーティング籾の残りを苗箱に播種して調査されており、とくに問題が無いことを明らかにされていました(写真2)。また、種子あるいはコーティングに重大な問題があるなら、他の圃場でも同じような苗立ち不良が起こるはずですが、必ずしもそうではありませんでした。これらから原因は粉衣種子ではないと考えました。

写真2 播種粉衣種子の出芽苗立ち確認(営農組合)

次に原因として次に考えられるのは「播種量の不足」です。これについて、営農組合への聞き取りから、播種作業後に準備した種子が大量に余ったような事実はなかったことが確認できました。また、圃場の観察では特定の播種条で苗立ちが少ない傾向はあまり見られず、苗立ち不足はランダムに発生していました。ですので、多少の差はあっても、全体あるいは特定の播種条(播種ユニット)での極端な播種量不足はなかったと推察しました。もちろん、カルパーコーティング時の湿度や同時被覆資材の性質によってはコーティング種子の仕上がりにムラが生じ、播種時に一時的に詰まるなどして部分的に繰り出し量が変動する可能性も無いとは言えませんでしたが、全体として播種量には大きな問題は無いと考えました。

さて、そうなると、播種されたであろう種子の状態を調べる必要があります。さっそくメンバーは圃場に入って土を探ってみました。その場ではなかなか種子を見つけることができませんでしたが、家に持ち帰った土サンプルを丹念に調べると、やや少なめではあるが播種種子が確認されました。それらの種子は胚乳が腐っていたり、いったん発芽した芽が土中から出る前に死んでしまっていることがわかりました(森田委員調べ)。

播いた種子が順調に出芽するためには、ある程度の温度が必要です。実は、事前に今年の安曇野市(アメダス「穂高」)の播種~出芽の気象状況を調べたところ、早い播種期の5月7日~11日について、播種から10日間の平均気温は15.3~16.4℃と、過去5年間の中で最も低い厳しい温度条件であったことが判明しました(表と図1)。また、播種後の落水出芽期間中に数回の降雨もありました。これらのことから、苗立ち不良の要因として、播種後の低温の影響、さらに降雨による地温低下の影響が考えられました。この場合、低温や降雨の影響は、出芽の遅れと酸素不足による種籾の土中での座死、そして除草剤の影響の二つが考えられます。営農組合で使用された除草剤はイネの出芽前や出芽時に処理する場合は、落水状態での散布が注意点として求められるものでしたので、排水不良の水がたまった部分において低温で出芽が遅れた個体に除草剤の影響が出た可能性も考えられました。

表と図1 播種日から10日間の気温比較(アメダス穂高データから下坪顧問作成)

以上、結論として、早い播種期に発生した苗立ち不良は播種後の低温と降雨による影響が主要因と考えられますが、それ以外にも、排水不良、除草剤の影響、部分的な播種量の多少なども可能性があり、これらが複合的に絡んだものと推察されました。ただし、早い播種期でも苗立ちが良好な圃場もあり、そのような圃場は林や家屋に囲まれて風当たりが弱いなど、微気象的な条件が影響したものと思われました。今後の留意点として、播種に際しては気象庁の提供する「2週間気温予報」を活用するなどして、播種後から出芽までの天候不良が予想される場合は播種量を増やす、排水溝を施すなど落水出芽の徹底を行うなどの対応が考えられました。また、カルパーコーティング作業時の湿度等気象条件、同時被覆資材の使用とコーティングの仕上がりについても留意する必要があります。

2日間にわたり圃場を見回りましたが、苗立ちが良好な圃場も多く(写真3)、また、雑草防除もよくできてた田がほとんどで、本年の生育初期の不良気象下でも営農組合の技術力の高さが示されていました。苗立ち不良田では多少の減収が見込まれますが、再移植の手間や移植遅れの減収を考えると、その必要性は少ないと判断しました。このようなことを営農組合の皆さんとともに2日間、調査・議論して考えました。生育ステージはほぼ4葉期に達し、分げつも出始めており、これからが茎数や生育量を確保する時期になります。条件の良い圃場では深水管理を試みるなど、今後の栽培管理を話し合って日程を終えました。

蛇足:最後は穂高駅近くの蕎麦屋でもりソバをお腹に納めました。ここはソバの量がすごく多く、不用意に大盛りを頼むとエライことになります。味もさることながら、主食としての穀物の本道を行くその姿勢に思わず拍手したくなるお店です。

写真3 苗立ちの良好な圃場

【宮城県加美町・色麻町 JA加美よつば直播栽培研究会】:6月20日

東北新幹線の古川駅から山形方面へ車で30分、奥羽山脈に向かってなだらかな丘陵地や扇状地が続く大崎平野の西部に加美町(かみまち)、そして色麻町(しかまちょう)があります。清流「鳴瀬川」が地域のほぼ中央を流れ、どこからでも広く明るい平野と奥羽山脈の特徴的な山々が一望できます。この地域にある加美よつば農業協同組合(JA加美よつば)とその組合員で結成された直播栽培研究会からの依頼により、同地で開催される直播水稲の現地検討会に巡回指導員として当会のメンバーが参加し、各圃場において生育状況、雑草等管理状況について調査したとともに助言・指導を行いました。時期的には播種後1か月から1か月半に概ね相当していました。多くの圃場の中から、現地の直播栽培研究会が選定した5カ所6筆を巡回視察しました。以前から当研究会が入っている地域ですが、ここ2年間はコロナ禍のために巡回指導は実施されず、久しぶりの催しとなりました。

A. 苗立ちと生育状況

各圃場でサンプリングした標準的な個体の生育状況を表2に示しました。これらは全てカルパー粉衣籾を点播播種したものになります。鉄コーティングで品種が著しく異なる(「ハイブリッドとうごうシリーズ」)圃場がありましたが、この表から除いています。

播種は5/3~9にかけ行われましたが、出芽苗立ちはB氏圃場とC氏圃場がやや少なめでしたが、全体としては良好でした。表中ではD氏圃場が最も生育が良好で、葉齢で1程度他よりも進んでおり、第4葉基部からの分けつも出現しつつあり、個体の充実度も高いように感じました。直播水稲の分げつは条件が良いと不完全葉の次に出葉する第1葉の基部から発生します。これを1号分げつと呼び、以下2葉基部からは2号分げつ、3葉基部からは3号、4葉基部からは4号、と出葉が進むにつれて次々と分げつが発生します。1号から4号くらいまでの分げつ(下位葉の分げつ)は充実した大きな穂になりやすく、これに主稈の穂が加わることで稲株の籾収量の大きな部分を担います。水稲直播ではこれら下位葉の分げつをきちんと確保することが安定収量を得る上で大切です。この点で、D氏圃場は生育良好と感じられました。ついでA氏圃場もやや生育が進んでおり、この時点で第3葉基部からの分げつがほぼ出現していました。他の方の圃場も葉齢進捗に合わせて1号、2号等の分げつが順調に出現していましたので、全般にとくに問題はありませんでした。続いて、各圃場の特徴を簡単に紹介します。

〇A氏圃場

苗立ちは良好で圃場内の苗立ちむらも無く、すでに述べたように生育も良好でした。

〇B氏圃場

ここでは、「ひとめぼれ」圃場と並んで、業務用米として最近作付けが増えつつある良食味の多収品種「つきあかり」が試作されています。「つきあかり」は農研機構が育成した早生品種ですが、栽培試験データが少ないこともあって、湛水直播栽培への適応性はまだよくわかっていません。実は、B氏から「つきあかり」直播試作の相談を受け、播種前にこの品種に関する資料や栽培上の留意点などを事前に送っており、3週間前の5月30日にはメンバー二人が訪問して調査を行いました。その際の調査結果では、葉齢は「つきあかり」「ひとめぼれ」とも同程度であったが、草丈は明らかに「つきあかり」が長く、第1葉基部の分げつ芽は「ひとめぼれ」では確認ができたが「つきあかり」では確認できませんでした。「つきあかり」は穂重型の品種で、移植栽培でもやや穂数が少な目であることから、第1葉基部の分げつ発生が少なかったり出現しなくなったりすることを少し心配しました。除草剤散布との兼ね合いもあるが、落水や浅水管理で第1葉の分げつ発生を促すことを助言しました。今回の調査ではその後順調に1号分げつ、2号分げつが発生したことが明らかになり、ほっとしました。草丈はやはり「つきあかり」が隣圃場の「ひとめぼれ」よりも長い傾向を示していました。B氏は今後も浅水管理を行うことでさらに下位分げつの確保を確実にする予定だそうです。今後の推移が楽しみです。

写真4 B氏の「つきあかり」(左側)と「ひとめぼれ」(右側)の直播圃場。

〇C氏圃場

播種機の繰り出し設定が少なめで、3㎏/10a播種の予定が2.5kg/10aとなったため、やや少ない苗立ちとなったが、収量には影響しないと推察されました。今回巡回した「ひとめぼれ」の中では草丈が最も短く、反面、分げつはきちんと出現しており、いわゆる「ずんぐり苗」の形状を示し、下位葉の退色も少ない良い苗質でした。今後が期待されます。C氏ご自身は直播栽培の経験が2年目で、次に記載するD氏の教えや助言を受けているそうです。現地の研究会内部で、ベテラン会員による初心者の方への指導や協力がうまく進んでいることに感銘を受けました。

〇D氏圃場

苗立ち、生育、共に極良好でした。2年前に訪問した際と圃場が少し移りましたが、この方の圃場はどれも生育が立派で、いつもながら感心させられます。

写真5 D氏圃場の様子

〇E氏圃場

民間育種事業者の水稲生産技術研究所が育成したハイブリッド品種「ハイブリッドとうごうシリーズ」を鉄コーティングで5月9日に播種されたそうです。播種量は2kg/10aと少な目で、そのためか苗立ちもやや少なめでした。この品種は概ね「ひとめぼれ」等に比べ玄米千粒重が重い(籾が大きい)特徴があり、同じ播種量の設定にすると播種粒数がやや少なめになると推察されました。B氏が試作されている「つきあかり」も同様の特徴があり、今後はこうした点に留意する必要があると思われます。ちなみに草丈は25㎝、葉齢は6.1でした。

B.雑草防除関連事項

〇A氏圃場

【除草剤の使用履歴】5月25日(キマリテ(イネ1葉~ノビエ3.0葉 イプフェンカルバゾン+テフリルトリオン)
【雑草の状態】除草効果良好:雑草ヒエ・なし(剤処理時の推定葉齢・3.2で晩限超えの懸念がありますが除草効果は出ています)、局所的にクログワイあり、アシカキとチゴザサが畦畔から侵入しはじめています。

〇E氏ほ場

【除草剤の使用履歴】播種同時:ジカマック500粒(ピラゾレート+ベンゾビシクロン+メタゾスルフロン) 5月25日:ゲパード(イネ2葉~ノビエ4.0葉:ダイムロン+ピラクロニル+ベンゾビシクロン+メタゾスルフロン)+6月○日:ルナクロス1キロ粒剤(イネ3葉~出芽後50日・ノビエ除く シクロピリモレート+テフリルトリオン)
【雑草の状態】(「ハイブリッドとうごうシリーズ」のほ場)除草効果不良:ほ場中央部にイヌホタルイ草丈約20cm・茎数10数本から発生初めまで多数残存、後期剤の効果発現(白化)中にもかかわらず枯死に至らないとみられます(図-1)。ほ場周縁部にイヌホタルイの他にタイヌビエ、イボクサ、タウコギ、タカサブロウ、チョウジタデ、ヤナギタデなどが発生しているので、ほ場内ではこれらは抑制できているとみられます。イヌホタルイの残存について、現場では「越冬株の可能性」と申し上げましたが、採取した試料をみたところ実生株であった(図-1)ことから、代かきから播種までの9日間でタイヌビエ推定葉齢0.6であったので、イヌホタルイ葉齢1.0を超えていた可能性があり、これが要因の一つと思います。

〇B氏圃場

【除草剤の使用履歴】5月20日:イッポンフロアブル(イネ1葉~ノビエ2.5葉 ピラクロニル+ブロモブチド+ベンスルフロンメチル)
【雑草の状態】除草効果良好:(剤処理時のタイヌビエ推定葉齢・2.4で晩限内) 「イッポンフロアブル」の残効がすでに消失しており、タイヌビエ・3葉、オモダカ・矢じり葉1、アゼナ、トキンソウ・3対、ヒナガヤツリ(?)・6cm、イボクサ・再生がみられます(図-2)。あと発生の個体数が多くないため後期剤の要否は微妙な所(今後の推移次第)です。

〇C氏圃場

【除草剤の使用履歴】5月18日:ジャスタフロアブル(イネ1葉~ノビエ3.5葉 シクロピリモレート+トリアファモン)
【雑草の状態】除草効果良好:雑草ヒエ・なし(剤処理時の推定葉齢・2.0で晩限内)、オモダカ・多発田のようですが線形葉段階にとどまっており本年は対策不要と思います。次年度はオモダカの発生を意識した防除計画をお願いします。

〇D氏ほ場

【除草剤の使用履歴】5月22日:ジャスタフロアブル(イネ1葉~ノビエ3.5葉 シクロピリモレート+トリアファモン)
【雑草の状態】 除草効果良好:雑草ヒエなし(剤処理時の推定葉齢・3.0で晩限内)、藻類(アオミドロ?)やや多、畔からアシカキ茎長約1mで侵入やや多なので要注意。

以上のように、イネの生育、雑草防除の様子などを現地の直播研究会の皆さん、JAの皆さん、資材メーカーの皆さんと一緒に確認しつつ圃場を巡回しました。この時期は概ね梅雨真っ最中で雨具は手放せないのですが、当日は爽やかな晴天に恵まれました。JA加美よつばでは安全安心の農産物生産にとくに力を入れておられます。水稲直播においても難しい有機栽培や、無農薬栽培に挑戦される方もいらっしゃいます。機会がありましたら、そのような取り組みもご紹介出来たらと思います。

【令和3(2021)年度水稲直播研究会 講演会を開催しました】

水稲直播研究会は、水稲直播栽培の普及に資するため、毎年、現地指導、現地研修会への講師派遣、研究会と地元の関係機関の共催で現地検討会・現地研究会等を開催しておりますが、ご案内のとおり、令和3年度は、新型コロナウィルスの感染拡大のため、現地指導等も限られ、現地研究会もコロナの緊急事態宣言のため開催出来ない等所期の活動が十分行えない状況でした。

一方、水稲直播に係る新技術の開発・現地での実証等や関係資材等の開発は進んでおります。そこで、会員等を対象に、水稲直播栽培に関する最近の研究や施策等に関する情報を提供し、会員等の今後の活動に資する目的で、講演会を開催いたしました。

講演内容の詳細は会誌45号にご執筆いただく記事をご参照ください。ここでは当日の概要を報告いたします。(文責:水稲直播研究会)

日時:令和4年1月20日 13:30~16:30

場所:赤坂インターシティコンファレンス(会場と参加者を結んだリモート会議で実施)

参加者:講師5名、農水省3名、農研機構3名、会員企業等45名、生産者20名

水稲直播研究会9名  計85名

議事次第  (進行:水稲直播研究会戸谷 亨事務局長、司会:松村 修中央委員)

1.開会挨拶

水稲直播研究会 森田弘彦会長

水稲直播研究会はこの2年間コロナ禍で現地訪問等の活動が大幅に制限されてきたが、その状況下でも研究・技術開発が進められていることから、今回会員相互の情報交換のための講演会を会場とネットによるハイブリッド形式で実施することにした。

この試みは昨年から行っているが本年はとくに生産者の方々にも参加していただいており、この中で準備に当たられた5人の講師ならびに事務局関係者に御礼を申し上げる。

年が明けて北日本豪雪やトンガの海底火山噴火等の不安材料も出てきているが、農業生産を支える水稲直播の着実な発展のために当研究会では新たにホームページを立ち上げて技術情報の刷新を図る所存であるので今後ともご協力をよろしくお願いしたい。

2.講演1「令和4年度当初予算及び令和3年度補正予算の概要」 

農林水産省農産局穀物課稲生産班 河野 研課長補佐

資料では稲・麦・大豆に関する予算を全般的に掲載しているが、本日はこの中で水稲直播に関わるものとして3事業についてご紹介する。

第一は新市場開拓に向けた水田リノベーション事業。水田農業を輸出や加工品原材料等の新たな需要拡大が期待される作物を生産する農業へと刷新(リノベーション)するために予算規模420億円で実需者ニーズに応えるための低コスト生産等の取組を行う農業者への支援等を行うもの。

支援の要件として低コスト生産等の取組を行ってもらう必要があるが、その取組メニューの一つとして水稲直播栽培がある。

二番目は産地生産基盤パワーアップ事業。園芸作物等の導入により収益力強化と輸出等の新市場獲得に取り組む産地に対して予算規模310億円で農業者が行う高性能な機械・施設の導入や栽培体系の転換等に対して総合的に支援するもの。

水稲直播との関連では上記の目的に沿った活動の中で実施するレーザーレベラーや直播機の導入等が考えられる。

三番目は稲作農業の体質強化に向けた超低コスト産地育成事業。輸出等の新たな需要に対応するために9600円/60kg以下など大幅なコスト低減を目指す産地に対し、生産コストの現状、コスト低減に向けた取組状況の把握、課題抽出、低減対策の検討等の取組を総合的に支援するもの。

具体的には地域の農業者や行政、農業団体、専門家等によるコンソーシアムによる現状分析、取組方策、実証および人材育成に関する提案に対して毎年1000万円を上限として最大3年間の支援を行う。

質問:国際競争力の強化に関してはその準備段階に対する支出も要件の中に入っているかどうか。

例えば商社の方に来て頂いて輸出のための販路拡大など指導して頂くことも可能か。

回答:本事業はコメのコストを下げる事業であり、下げた結果として輸出に繋がることはあっても、輸出の取組に対して直接支援するものでは無い。

ただ政策的には、本事業を使ってコストを下げて輸出に取り組んでもらいたいという意図はあるので、配布資料に書いてあるとおり、輸出米を1ha以上作付することを要件の一つに入れている。

3.講演2「関東地方の水稲直播栽培の状況と課題」   

宇都宮大学農学部付属農場 高橋行継 教授

全国の直播面積は平成16年から令和元年までの15年間で約2.5倍になっているが、地域別の直播普及率で比較した場合、関東東山は0.7%で東北、北陸、東北が3.7~5.4%より低い状況にある。県別の栽培面積(湛直、乾直別)では茨城県(湛:147ha、乾:253ha)、栃木県(湛:107ha、乾:284ha)、群馬県(湛:32ha、乾:10ha)、埼玉県(湛:140ha、乾:58ha)、千葉県(湛:116ha、乾:219ha)となっている。

関東地方で直播が普及しない理由としては、①園芸等との複合経営が大きく、稲作のウェイトが小さい、②周年栽培が可能で稲麦二毛作が存在する、③大都市近郊農業で経営規模拡大、農地の集約が難しい、④行政が普及に力を注いでいない、⑤高齢化、保守性、過去の失敗が影響している等が挙げられる。

このような状況の中で効果的な普及法としては、①地域の実情と農家の「本音」を知っておく、②現地に実験・展示圃を設定してオピニオン・リーダー適農家に技術を実践してもらう、③新技術を正確に身につけてもらい必ず成功させる、④成功例を「口コミ」で仲間内に広めてもらい、技術の普及を促進させることが重要である。

直播栽培は稲作の省力・低コスト化に向けた切り札として必要な技術の一つであると考えられるので、今後の普及拡大に期待したい。

質問:私共は現地で長くやってきて、成功して定着した所も、立ち消えた所もある。現地で3年ぐらいカルパーコーティングから生育3~5葉期頃までを教えると成功する。営農組合・研究会等の組織ができた所は定着するが、個人の大規模はうまく行かない。そういう意味で、ねらいが重要と思うがいかがか。

回答:おっしゃる通り、対象をしっかり絞るのが重要で、大規模な生産集団が重要と考えている。1年で失敗するとダメで、3年ぐらいはやって定着させることが大事である。

質問:身につまされるようなお話をして頂き有難うございました。乾田直播が増えていることと、50年前に乾田直播に取り組んだものの失敗してこりたという2つの話があったが、何が解消されて現在の乾田直播増加に至ったのか、また、各県ごとに乾田直播のかたちが違うことはあると思うが、それらに対して指導ができているのか。

回答:最近は除草剤のコントロールが良くなったことが大きく、結構増えている。昔は失敗の多かったが、埼玉県鴻巣市では個人で乾直でも湛直でもやっているが、乾直では3月中旬から始め、湛直は5月からというように期間が長くとれるようになったことも有利に作用している。各県の取り組みは確かに違うところもあるようだが、そのことについては今後よく調べてみる。

4.講演3「ドローンを活用した水稲直播栽培」

石川県農林総合研究センター

農業試験場育種栽培部作物栽培グループ 宇野史生専門研究員

農研機構生研支援センターの革新的技術緊急展開事業の支援を受け、石川県を中心とし

た国産米国際競争力強化コンソーシアムが実施している。

散布用ドローンを多機能化して水稲直播に利用することを目指している。ドローン播種に当たっては種子の土中打ち込み、均一な条播によるによる倒伏軽減、自動走行・低空飛行による播種精度向上のための改良を行っている。

播種機の仕様としては、播種機重量6kg、播種幅1.2m(30cmx4条)、種子ホッパー容量8L(6~7kg種子)、飛行速度秒速4m=時速14kg、10a当播種時間6分(播種量5kg/10a)、1バッテリーでの播種面積/時間 15a/9分、1日の播種可能面積 3haである。

留意事項としては、①催芽籾を十分乾燥させたものを用いること、②播種時のほ場条件と

して土壌が柔らかいこと(代かき直後~3日後)および水溜まりが少ないこと(完全落水)、③播種後の水管理としては落水状態を維持して出芽を促し、1葉期に入水して一発処理除草剤を散布することが挙げられる。

これまでに石川、佐賀、青森県の経営体で実証試験を行い、ほ場内播種機を用いた場合と同様の収量が得られている。問題点と今後の対応としては、鳥害関連要因(田面露出による土壌硬化や滞水による播種深度不足、入水遅れ)の解消、ほ場の水管理方法、コーティング種子を用いるための播種機改良がある。

質問:ドローンで打ち込み直播とは大変なことにチャレンジされているが、1回に打ち出す

種子は何粒ほどで、打ち込まれた種子の幅は、写真からは分からなかったが、従来の条播

よりは広く見える。今の湛直点播に比べるとばらついているようだが。

回答:打ち込む種子数については、ねらいの苗立ち数が100本/㎡で苗立ち率が半分なの

で、200粒/㎡ぐらいにしている。条間は30cmだが、写真では少し広くなっている。

コメント:倒伏を気にしているが、できるなら点播にしてほしい。がんばって頂きたい。

5.講演4「雑草イネ・漏生イネ対策 ―直播栽培では?―」

農研機構中日本農業研究センター

水田利用研究領域作物生産システムグループ 大平陽一グループ長補佐

雑草イネの特徴としては、①脱粒性を備えていることが多い、②玄米は着色しているこ

とが多い、③栽培品種より長稈であることが多い、④形態・色が栽培品種と同程度の擬態

型も存在することが挙げられ、根絶しないと再び増える危険があるので発生したほ場では

直播栽培をしないのが原則である。移植栽培を行う場合は有効な除草剤の体系処理を行う。

漏生イネとは栽培品種がほ場に残留して翌年発生するイネのことを指し、直播栽培でとく

に問題となる。漏生イネの発生を防止するためには前作で倒伏させない、適期刈取りを行

うことが重要であり、耕種的方法としては暖地・温暖地では秋耕により発芽を促進して冬

季の低温で枯死させること、寒冷地では秋耕せず圃場表面で種子を越冬させることが勧め

られる。湛水直播では深耕と丁寧な代かきで種子を埋没させて出芽を阻害する。

また、暖地・温暖地では晩播により漏生イネを十分に発生させて除草剤や耕起により防除した後に直播栽培を行う方法もある。化学的方法としては収穫後に石灰窒素(シアナミド)により漏生イネの休眠覚醒、発芽能力の低下、死滅を行うのも効果的である。この場合散布後に耕起する場合は2週間以上経過してから行うことを推奨する。ほ場条件も重要であり、石灰窒素散布後に降雨等により湛水したり、また稲ワラの存在で効果が落ちることも留意事項である。

質問:北陸のような重粘土壌では、ワラを秋にすき込むことが春先の土壌還元防止等に有効であると聞いたことがある。ワラ処理、石灰窒素施用、漏生イネ抑制の3つの間の関係をどのように理解したらよいのか。

回答:地域によって対策は異なると考える。北陸の場合漏生イネ対策としては秋に起こすと効果が低い。

秋起こししたい場合は石灰窒素を撒いて2週間以上経ってから耕起するのが望ましい。ワラがあると石灰窒素の効果が落ちるということは、ワラに石灰窒素が付着して土壌表面の漏生イネに直接作用しないからと考えている。

6.講演5「現場にみる直播栽培での植物防疫の課題」

水稲直播研究会 黒須泰久中央委員

水稲直播研究会は 1985年(昭和60年)に農林水産省の指導のもとに会員制の研究会として発足し、それ以来カルパー粉粒剤を利用した湛水土壌中直播栽培を中心に指導・普及に努めてきた、これまでに得た種々の直播栽培に関わる植物防疫の課題についてお話する。

直播では移植と比べてイネの生育が遅れるので、イネミズゾウムシ、イネドロオイムシ、葉いもちのような初期病虫害が問題になるが、各県とも発生予察による防除体系がとられていること、種子処理用の殺虫剤・殺菌剤の湿粉衣ができるようになったこと、水稲病害抵抗性品種の創出により問題視することが少なくなってきている。

西南暖地で被害が大きいスクミリンゴガイについては銅剤による産卵抑制、殺貝剤、耕起による破砕、石灰窒素、網による侵入阻害等の方策がとられている。

鳥害については糸張り(カラス、カモ)、覆土(スズメ、カワラヒワ)、ほ場集積による団地化、落水出芽(カモ)、目玉風船(カラス)、カラス用ガウス磁石、忌避剤等が有効である。

雑草防除に関しては雑草の発生予察技術ならびに直播用除草剤の開発と利用が進行しており、とくにカルパー粉衣湛水土中栽培では初中期水管理と関連した防除法が確立している。

これ以外の湛直・乾直においても方式別に播種同時、初中期、中後期除草剤の組み合わせ処理が実施されている。

質問:移植栽培の場合は従来航空防除がスケジュール化されていたが、農薬の箱施用技術が開発されたことにより病害虫防除もかなり簡単にできるようになった。

直播の場合これに該当するものとしては種子粉衣技術が進展しつつあるようだが、移植の場合と同等の効果が得られるかどうか、どう評価すればよいのか。

回答:どう評価というのは難しいが、どこまでできるかと言えば、生育初期に起きる病害では葉イモチ、紋枯れ、白葉枯れの殺菌剤は、種子が粉衣できれば十分できるだろう。

それから虫害ではアドマイヤーのような殺虫剤がイネミズゾウムシやドロオイムシの食害防止に効果がある。スクミリンゴガイ対策としては殺貝剤や石灰窒素が効果がある。

鳥害にはキヒゲン(チウラム)のような忌避剤が有効であるが、残念ながら湛水直播では催芽種子を使うので登録上使えない。チウラムが稲に害を及ぼすことになっている。

質問:今の話で、播種機の場合は殺虫・殺菌剤の側条施用が可能だが、ドローンでは無理なので、代わりの方策はないか。

回答:現在、ドローンではできない。農薬についても同時散布のアイデアは出ているが、現在は、種子コーティングの方法が良いのではないか。

7.閉会挨拶

水稲直播研究会 平岩進顧問

本日は、貴重なご講演を頂いた講師の方々、この会場またはWEBでご参加いただいた会員、そして生産者の方々には、厚く御礼を申し上げます。

先ほど森田会長からあったように、コロナの影響でこの2年間、活動が殆どできない状態でした。

その間に、研究会では新たなホームページを作成しており、近々公開する予定です。その中には最新の情報や、皆さんからのご意見。ご質問をお聞きするコーナーもあります。

これからも私共のホームページをご活用いただきますようお願い申し上げます。本日一部の手違い等もございましたが、ご清聴、誠にありがとうございました。

【有明営農組合における深水管理ほ場の収穫前生育調査とサンプリング(2021.10.10)】

水稲直播研究会の下坪訓次顧問と椛木信幸中央委員の主導で「有効茎数決定期前後に、無効化する弱小分げつ発生抑制のための15cm程度の深水管理(水稲湛水土壌中直播栽培の手引き)」を、湛水土壌中直播栽培に精力的に取り組む長野県安曇野市の有明営農組合の直播田で実施しています。
令和3(2021)年には点播の「コシヒカリ」直播田で6月中旬から10日間ほどの深水処理を行い、9月24~25日に同営農組合のご協力のもと、収穫直前のイネの生育調査と収量など計測用のサンプリング(試料採取)を行いました。

1.ほ場調査(写真1)

本年は苗立ちのばらつきが大きく、苗立ちが少ないほ場での生育経過が心配されたものの、現段階ではいずれの圃場でも稲が全面に繁茂しており、移植ほ場との区別がない状況でした。
稈長は昨年(80~85cm)よりやや長く90cm以上伸びたほ場では少~中程度の倒伏が見られたものの(表1参照)、その始まりは出穂後の遅い時期とのことで収量に影響する程度は小さいと判断されました。

ほ場4(直播慣行区:稈長84cm)

移植ほ場(ほ場1、営農組合管理:稈長94cm)

ほ場5(直播慣行区:稈長91cm)

ほ場 5(直播深水区:稈長95cm)

写真1 有明営農組合およびその近傍における収穫前のほ場状況(番号は表1を参照)

サンプリング調査(表1)

表1に示したほ場で、イネの形態調査用として、ほ場2、ほ場6、ほ場7、ほ場4の慣行区および深水区の6圃場から3株を抜き取り、また収量構成要素調査用としては全圃場から3株を刈り取り、それぞれ持ち帰って調査することにしました。詳細は調査結果が出てから報告する予定です。現時点の特記事項としては栽培法による倒伏状況の違い(カルパー、移植、水管理)、周辺の移植田から伝播したとみられる穂いもちの発生が挙げられます。

表1 サンプリングを行ったほ場とイネの生育状況

写真2 
直播栽培ほ場でのイネ株(点播)を選定・採取する水稲直播研究会の下坪訓次顧問(手前)と椛木信幸中央委員(奥)