2024.7.17~18 東日本大震災復興地の直播栽培を見てきました
JA全農東北営農資材事業所が管内職員向けに開催した水稲直播勉強会に同行させていただき、福島県楢葉町、川俣町の直播栽培の取組状況を拝見し、現地のご苦労や今後の展望などをうかがってきました。震災発生後、楢葉町は2015年、川俣町は2017年に避難指示解除となるまで営農はできませんでしたが、その後は農地の除染・客土が進み以前の農村風景が戻りつつあります。
楢葉町では「震災前の農村原風景をまず取り戻す」という町の方針から、近隣いわき市の建設業者等にも働きかけを行ったそうで、今回訪問した農業経営体はこれに該当します。施設・資材が全く無く、それらをJAから借用して稲作を復活するには移植だけでなく直播栽培を導入する必要があり、移植のほか乾田直播(東北農研のグレーンドリル方式)と湛水直播(鉄コーティング)により5名で飼料用米とWCSで50ha以上を作付けしています。
除染後に山土客土したこともあるのでしょうが、圃場の雑草は少なく苗立ちも良く、多収が期待できるまずまずの生育状況でした。春作業の切り回しをいかに上手く行うかが課題で、乾田直播などで作業分散を図りたい、また圃場ごとの特徴を見極めて乾直、湛直、移植の適用を考えて行く、と話されていました。
川俣町では、現在の帰村地区民は2割程度で深刻な担い手不足の中、時に応援を得ながら6名で、80haを越える牧草、飼料作のほか、湛水直播(鉄コーティング)の飼料用米60haの作付けを行っています。営農再開当初から水稲作は直播を前提とし、今年はリゾケア利用の湛水直播にも挑戦しています。
標高530m程度の連坦する鉄コーティング、リゾケア両方式の直播圃場を拝見しました。この春は播種後3℃とかなりの低温があり出芽が遅れたということで、たしかに稲体は軟弱徒長気味で、標高の低い楢葉町現地に比べると分げつなど生育量は明らかに少ない状況でした。
ただし、複数の圃場で大きな苗立ち不足箇所は無く、今後、生育が進めば収量は確保できるものと思われました(その後の猛暑傾向を考えると確実に回復したと推察します)。リゾケアと鉄コーティングの違いは見られず、法人によると、鉄コーティングで見られた苗立ち期の藻・剥離による障害の回避をリゾケア直播に期待しているとのことでした。
今回拝見した直播取り組みは、震災による「営農リセット、少人数での再開」という特殊な条件での直播事例かもしれませんが、直播経験もほとんど無い農業者でも上手く直播栽培されている状況を拝見し、改めて直播技術の安定化が進んできたことを実感しました。
JA全農主催の職員向け勉強会で講演しました 2024年5月31日 仙台市
JA全農東北営農資材事業所では、全国水稲作付面積の26%を占める東北地方における水稲直播の現状把握と、関連技術や資材等に関する知識向上のための職員向けの勉強会を計画されています。今年度中に計4回の開催を予定されていますが、その初回として「水稲直播を巡る情勢と関連技術に関する情報共有」を目的に「令和6年度第1回全農職員向け水稲直播勉強会」が仙台市で5月31日午後開催されました。同事業所の呼びかけに応じ、当会もこの勉強会に積極的に協力させていただくこととなり、会長の松村が講演を行いました。
当日は、「水稲直播技術の現状」のタイトルで、世界中の穀類のほとんどが直播で栽培される中、古代日本(アジア)では何故に移植栽培が主流となったのかの“そもそも論”をまず示しました。そして、近代明治期以降の日本の直播普及の歴史について、北海道や岡山県、佐賀県などの事例を示し、社会・自然的背景や技術の特徴を述べる中で、直播栽培の基本的性格がその時々の「農業労働力不足への対応策」であったことを示しました。その上で、機械化移植稲作体系が確立した1970年代以降の湛水土壌中直播法(カルパー直播)の開発過程を、除草剤や品種既発の進捗も含め示しました。そして、現在の各種の湛水直播法は、この「湛水土壌中直播法(カルパー直播)」を基盤として、そのアンチテーゼである無粉衣を含む籾粉衣資材や播種深など細かな播種方法のバリエーションとして開発され進化してきたことを紹介しました。併せて、以前は用水不利地や水不足地での直播選択肢の位置付けが大きかった乾田直播が、冬代かきや鎮圧法の改善などによる漏水防止技術等の向上により、近年、その位置付けが大きく変わりつつあることを述べました。湛水直播、乾田直播の別を問わず、農業労働力不足が生じる時、必ずや直播栽培が求められることは今も昔も変わりが無いこと、そして今がその時であることをお話ししました。
勉強会ではこのほか、東北農政局生産部の新井氏から、水稲作期幅が短く春・秋の農作業ピークが顕著な東北地域では、その緩和・分散のため、スマート農業技術、高密度播種苗栽培と並び、直播栽培の導入・普及が必須であること、地域での主な直播方式、直播栽培での多収実現事例、県別の普及状況などが紹介されました。直播に取り組む農業者からの言葉として、「基本技術をマスターした上での応用が大事」、「近く訪れるであろう“超規模拡大”に備えた技術体系として準備する考えも必要ではないか」と話されたことが印象的でした。
令和6年度水稲直播研究会総会・理事会を開催しました
令和6年4月23日(火)に「令和6年度水稲直播研究会総会・理事会」を開催し、令和5年度事業報告及び収支決算並びに令和6年度事業計画及び収支予算の審議、役員及び委員の改選の報告等を行いました。
農事組合法人 有明営農組合との座談会を行いました(12月13日)
当会では平成28年度より、「直播栽培でおいしい米」を実現しながら組合員参加で直播栽培面積を拡大してきた長野県安曇野市の(農)有明営農組合とともに、長野県関係機関や地元JAのご協力を頂きながら直播栽培の普及・改善活動を展開してきました。
この間、新型コロナ感染症拡大による困難な状況も続きましたが、感染対策を十分とる中での一定の社会・経済活動が緩和されたことから、組合員各位の直接の声を収録し今後の技術改善や更なる普及拡大に資する知見を得る目的で12月13日に安曇野市内において座談会を開催しました。
座談会では営農組合における水稲直播取組の契機、直播栽培の評価、技術の問題点とその改善方向、後継者育成や面積拡大を含む今後の展望などについて討議を行いました。
“発言される方が少なかったらどうしよう?”との主催者の不安をよそに、ご出席の皆様からは活発かつ熱こもったご発言をたくさんいただきました。
また、ご出席いただいた長野県関係者(長野県農業試験場、松本農業農村支援センター)、地元JAあづみ関係者の皆様からは県での技術開発の状況、県内や地域における普及の状況をご紹介いただくとともに、多くのコメントやご助言も頂戴いたしました。
のぞみ仰ぐ北アルプスなど山々の稜線に雲間から新雪が確認できる寒い一日でしたが、熱気のこもった座談会となりました。座談の内容については、今後取りまとめて令和5年3月発行の水稲直播研究会会誌46号に掲載する予定です。(当ホームページでの公開は令和5年9月ごろの予定)
※有明営農組合様についてはこのホームページトップの「新着技術情報」の下段からリンクのある「マイナビ農業」に「カルパー直播」のお米が品評会で最優秀賞に! ある農業法人の成功への道のり【座談会】」が掲載されています。興味を持たれた方はこちらの方もご覧ください。
2.催し物案内
「九州乾田直播研究会」のご案内
農研機構九州沖縄農業研究センターが開発に取り組んできた、水稲栽培の省力、低コスト化が期待できる乾田直播技術「振動ローラ式乾田直播」の普及を図るため、同センターを事務局する「九州乾田直播研究会」が設立されました。
生産者、農業者団体、試験研究機関、行政、民間企業などが定期的に情報交換できる場を目指し、会員を募集されています。ご興味のある方は、添付のpdf資料【「九州乾田直播研究会」のご案内】をご覧ください。振動ローラ式乾田直播の詳細については、下記の同センターのwebページをご参照ください。
・振動ローラ式乾田直播の動画
https://www.youtube.com/watch?v=WQstTISGC7g
・乾田直播栽培体系標準作業手順書 ―振動ローラ式乾田直播― [九州地方版]
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/laboratory/naro/sop/153213.html
本件のお問い合わせは、直接九州沖縄農研センターにお願いします。
談話室では水稲直播栽培に関連するトピック等を提供致します。
話題1(2021.10.10)
話題2(2022.6.1)
話題2(2022.6.1)