1.活動報告

2025.1.24 令和6年度さんとう北部水稲直播研究会反省検討会に出席しました

JAえちご中越管内で開催された「さんとう北部水稲直播研究会反省検討会」に出席しました。同JAは新潟県中越地方の4JAが合併し誕生しました(R5)。長岡市や柏崎市など8市町村にまたがり、その広さは大阪府や香川県と同等の約2000㎢です。
「さんとう北部」は三島郡の寺泊、和島、出雲崎などの地区ですが、イメージとしては観光漁港で有名な寺泊から出雲崎にかけてのJR越後線沿線になります。日本海に面した比較的温暖な気候と豊かな自然を利用し古くから米づくりが盛んで、主食用米コシヒカリはもちろん、酒造・米菓製造等の米産業を支える酒米・もち米など原料米生産地でもあります。

平成14年、JAの支援を受け和島地区で担い手3名、3haから始まった直播栽培は翌平成15年には近隣の寺泊、出雲崎にも拡大し、現在の「さんとう北部水稲直播研究会」が設立されました。以降、圃場巡回、先進地視察、反省会、総会などの取組を通じ、会員相互の情報交換、JAや県振興局からの営農・技術指導を受けることで苗立ちや雑草、倒伏等の問題を改善しながら普及面積の拡大と生産の安定化を図り、平成29年には約80haに達しました。
現在も直播面積はカルパー直播を中心に増加中で新規取組農業者も増えつつあるそうです。令和2年以降のコロナ禍で5年ほど活動が途切れていましたが、今回の検討会を契機に再開するようです。当会はコロナ禍前から要請に応じて委員を派遣してきましたが、再開後の活動に協力させていただくとともに、同地や新潟県内での直播栽培の諸情報の収集に努めたいと考えています。

検討会では、当会・松村から「水稲直播栽培の状況・技術情報等について(直播普及3つの波-過去の2波と今の波)」のタイトルで、近代以降の水稲直播普及の経緯は3つの波で示され、第1波は昭和初期北海道の湛水点播直播で最大面積約15万haを記録、第2波は昭和49年の約5.5万haで岡山・佐賀県が半分弱を占め94%が乾田直播、以降は田植機普及で減少し平5年に底を打ち、その後はカルパー直播による第3波が起こり今に至るが、最近は乾田直播も増え新たな局面にある、などをお話ししました。最近の技術開発概要も説明しました。

当会・渡邊委員からは「水稲直播栽培における除草剤を利用した雑草防除の基本」のタイトルで、現在は多くの適用除草剤が使えるがそれでも難しいのが直播の雑草防除で、4点の困難な理由について、処理時期の注意点や地域でのイネとノビエ葉齢進展の違い、播種様式等で異なる播種深さと薬害、雑草種の多様さ、田面水での剤成分挙動と均平性や水深の重要性などを説明し、直播栽培の雑草防除の基本は体系処理だが、それを踏まえつつ、実用性が確認された一発処理剤も登録されており、播種状況法や圃場条件を把握した上で使用することはできる、などを説明しました。質疑として雑草イネの防除(渡邊)、岩手大の初冬播直播(松村)などの質問があった。

そのほか、長岡地域振興局の中島氏から「令和6年度の直播の状況について」説明があり、次年度以降の改善方策について指導・提案がされた。昨年度はほぼ一貫して高温に推移したが、それに対応する土づくり、水管理が重要と指摘された。クミアイ化学、北興化学の担当者からは、直播用除草剤や生育調節剤等の製品紹介を、製品の現地圃場での実証結果なども織り交ぜて説明いただいた。販売価を抑えた大容量、大ロット製品の紹介が印象的でした。
会員の直播品種はコシヒカリが全てであるが、モチ新品種の試作も始めた。今後も直播は伸びる予想で現地直播研の活動、JA指導を活発化させたい意向をうかがった。苗立ち期以降の検討会での出席依頼をいただき現地を後にしました。
心配した雪は現地ではほぼ消えていましたが、この地域はこれから雪割草(スハマソウ、ミスミソウ)があちこちで見られ、散策路が整備された保護地もあります。出雲崎は良寛禅師の生誕地で関連する史跡や資料館も「さんとう地域」にはたくさんあります。一度訪れてみてください。

【検討会での渡邊委員の講演】

2024.12.2 令和6年度水稲直播研究会講演会を開催しました

水稲直播研究会では当会会員等に向けた講演会を適時開催しています。近年、乾田直播の各種技術が開発され普及が広がりつつありますが、会員ならびに当会の活動にご協力やご支援いただく皆様からも、最近の乾田直播の技術開発と普及状況、その課題等についてまとまった形で知りたいとのご要望を頂戴するようになりました。そこで、この機会にいくつかの普及が進む技術、今後普及が期待される技術をピックアップして開発元、開発者の方を講師にお招きし、技術内容と詳細、普及に関する諸情報、それぞれの今後の課題などについてお話しいただく講演会を下記の要領で開催しました。講演会の内容、質問や総合討論などについては現在取りまとめ中ですが、まとまり次第このホームページや当会会誌にて公開いたします。

<講演タイトル及び講演者>
「プラウ耕鎮圧体系乾田直播の技術的特徴と適用可能な土壌条件」
農研機構東北農業研究センターICT活用技術グループ長 冠 秀昭 氏
「振動ローラ式乾田直播技術の特徴と実施のポイント」
農研機構九州沖縄農業研究センタースマート水田輪作グループ長補佐 中野 恵子 氏
「不耕起V溝直播栽培技術の特徴と新たな課題への対応」
愛知県農業総合試験場作物部作物研究室 主任研究員 森崎 耕平 氏

<講演会解題>
「(解題)今、なぜ乾田直播に着目するのか」 水稲直播研究会

<日程・会場>
2024年12月2日(月) 13:00~17:00
千代田区平河町 都道府県会館40号室(会場とオンラインの2方式)

2024.12.2 北興化学工業株式会社の広報誌「農薬春秋」に「水稲直播栽培技術の現状と将来」が掲載されました

「農薬春秋」は昭和32年発刊の北興化学工業株式会社の広報誌です。農作物の病害虫・雑草の生態や防除について、その時々の話題となるテーマを中心に発行されておられます。

最新号の101号に当会会長の松村が「水稲直播栽培技術の現状と将来」のタイトルで、日本における近現代の水稲直播栽培技術の開発と普及について寄稿し掲載されました。

ざっと見た直播の近現代史ですが、ご覧になりたい方は下記の北興化学工業株式会社ホームページトップページから、 ホーム>事業内容> 農薬事業> 農薬春秋、とたどってご覧ください。PDFとして全編ダウンロードも可能です。

北興化学工業株式会社HPのURLはこちらです。→ 北興化学工業株式会社

2024.7.17~18 東日本大震災復興地の直播栽培を見てきました

JA全農東北営農資材事業所が管内職員向けに開催した水稲直播勉強会に同行させていただき、福島県楢葉町、川俣町の直播栽培の取組状況を拝見し、現地のご苦労や今後の展望などをうかがってきました。震災発生後、楢葉町は2015年、川俣町は2017年に避難指示解除となるまで営農はできませんでしたが、その後は農地の除染・客土が進み以前の農村風景が戻りつつあります。

楢葉町では「震災前の農村原風景をまず取り戻す」という町の方針から、近隣いわき市の建設業者等にも働きかけを行ったそうで、今回訪問した農業経営体はこれに該当します。施設・資材が全く無く、それらをJAから借用して稲作を復活するには移植だけでなく直播栽培を導入する必要があり、移植のほか乾田直播(東北農研のグレーンドリル方式)と湛水直播(鉄コーティング)により5名で飼料用米とWCSで50ha以上を作付けしています。

除染後に山土客土したこともあるのでしょうが、圃場の雑草は少なく苗立ちも良く、多収が期待できるまずまずの生育状況でした。春作業の切り回しをいかに上手く行うかが課題で、乾田直播などで作業分散を図りたい、また圃場ごとの特徴を見極めて乾直、湛直、移植の適用を考えて行く、と話されていました。

川俣町では、現在の帰村地区民は2割程度で深刻な担い手不足の中、時に応援を得ながら6名で、80haを越える牧草、飼料作のほか、湛水直播(鉄コーティング)の飼料用米60haの作付けを行っています。営農再開当初から水稲作は直播を前提とし、今年はリゾケア利用の湛水直播にも挑戦しています。

標高530m程度の連坦する鉄コーティング、リゾケア両方式の直播圃場を拝見しました。この春は播種後3℃とかなりの低温があり出芽が遅れたということで、たしかに稲体は軟弱徒長気味で、標高の低い楢葉町現地に比べると分げつなど生育量は明らかに少ない状況でした。

ただし、複数の圃場で大きな苗立ち不足箇所は無く、今後、生育が進めば収量は確保できるものと思われました(その後の猛暑傾向を考えると確実に回復したと推察します)。リゾケアと鉄コーティングの違いは見られず、法人によると、鉄コーティングで見られた苗立ち期の藻・剥離による障害の回避をリゾケア直播に期待しているとのことでした。

今回拝見した直播取り組みは、震災による「営農リセット、少人数での再開」という特殊な条件での直播事例かもしれませんが、直播経験もほとんど無い農業者でも上手く直播栽培されている状況を拝見し、改めて直播技術の安定化が進んできたことを実感しました。

農事組合法人 有明営農組合との座談会を行いました(12月13日)

当会では平成28年度より、「直播栽培でおいしい米」を実現しながら組合員参加で直播栽培面積を拡大してきた長野県安曇野市の(農)有明営農組合とともに、長野県関係機関や地元JAのご協力を頂きながら直播栽培の普及・改善活動を展開してきました。

この間、新型コロナ感染症拡大による困難な状況も続きましたが、感染対策を十分とる中での一定の社会・経済活動が緩和されたことから、組合員各位の直接の声を収録し今後の技術改善や更なる普及拡大に資する知見を得る目的で12月13日に安曇野市内において座談会を開催しました。

座談会では営農組合における水稲直播取組の契機、直播栽培の評価、技術の問題点とその改善方向、後継者育成や面積拡大を含む今後の展望などについて討議を行いました。

“発言される方が少なかったらどうしよう?”との主催者の不安をよそに、ご出席の皆様からは活発かつ熱こもったご発言をたくさんいただきました。

また、ご出席いただいた長野県関係者(長野県農業試験場、松本農業農村支援センター)、地元JAあづみ関係者の皆様からは県での技術開発の状況、県内や地域における普及の状況をご紹介いただくとともに、多くのコメントやご助言も頂戴いたしました。

のぞみ仰ぐ北アルプスなど山々の稜線に雲間から新雪が確認できる寒い一日でしたが、熱気のこもった座談会となりました。座談の内容については、今後取りまとめて令和5年3月発行の水稲直播研究会会誌46号に掲載する予定です。(当ホームページでの公開は令和5年9月ごろの予定)

※有明営農組合様についてはこのホームページトップの「新着技術情報」の下段からリンクのある「マイナビ農業」に「カルパー直播」のお米が品評会で最優秀賞に! ある農業法人の成功への道のり【座談会】」が掲載されています。興味を持たれた方はこちらの方もご覧ください。

2.催し物案内

「九州乾田直播研究会」のご案内

農研機構九州沖縄農業研究センターが開発に取り組んできた、水稲栽培の省力、低コスト化が期待できる乾田直播技術「振動ローラ式乾田直播」の普及を図るため、同センターを事務局する「九州乾田直播研究会」が設立されました。

生産者、農業者団体、試験研究機関、行政、民間企業などが定期的に情報交換できる場を目指し、会員を募集されています。ご興味のある方は、添付のpdf資料【「九州乾田直播研究会」のご案内】をご覧ください。振動ローラ式乾田直播の詳細については、下記の同センターのwebページをご参照ください。

・振動ローラ式乾田直播の動画
https://www.youtube.com/watch?v=WQstTISGC7g
・乾田直播栽培体系標準作業手順書 ―振動ローラ式乾田直播― [九州地方版]
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/laboratory/naro/sop/153213.html
本件のお問い合わせは、直接九州沖縄農研センターにお願いします。

3.談話室

談話室では水稲直播栽培に関連するトピック等を提供致します。

話題1(2021.10.10)

話題2(2022.6.1)

話題2(2022.6.1)