【HP掲載済み記事一覧】
令和5年度水稲直播研究会総会・理事会を開催しました(4月21日)
米生産コスト低減に関する講演会を行いました(同日)
当会の活動は、年1回開催する総会において会員の皆様に審議いただき決定・ご承認を受けています。今年度は4月21日に東京千代田区の(公財)日本農業研究所会議室において令和5年度総会・理事会を開催し、令和5年度事業計画及び収支予算の決定、並びに令和4年度事業報告及び収支決算の承認をいただきました。今年度も水稲直播技術の普及推進に努めます。
総会・理事会終了後、農林水産省穀物課 神田 龍平 課長補佐様から、「米の生産コスト低減に関する現状と課題」のタイトルでご講演をいただきました。講演資料はこちらをご覧ください。
ご講演および質疑の概要は次のとおりです。コスト低減の最新情報や行政の取り組みなどについて貴重なお話をいただくことができました。ここに厚く御礼を申し上げます。
〇「米の生産コスト低減に関する現状と課題」ご講演要旨(当研究会の取り纏め)
・水稲の直播面積の推移について
水稲の直播栽培は令和3年度全国で約3.5万haであり、全水稲作付面積約2.5%に
該当している。様式別では乾田直播で増加、湛水直播で停滞あるいは減少の傾向にある。地域別の直播栽培面積の動向としては、令和2年は東北(11,800ha)、北陸(9,027ha)、東海(5,141ha),中国四国(2,641ha)、北海道(2,997ha)、関東(1,754ha)、近畿(1,084ha)、九州(926ha)の順であった。令和2年と3年を比較した増減では北海道で大きく増加、東北で微増しているが、その他の地域では減少している。
・令和3年度米の生産コストについて
玄米60kg当の生産コストは15,046円であり、労働費、農機具費がそれぞれ26%、19%と大きなウェイトを占める。政府目標(KPI:日本再興戦略(平成25年閣議決定))によると令和5年までに担い手の米の生産コストを平成23年全国平均(16,001円)から4割削減(9,600円)となっているので、対象となっている経営体をみると認定農業者のいる15ha以上の個別経営は10,496円、稲作主体の組織法人経営は11,294円であった。また、1万円以下の生産コストを実現している先進経営体数はここ10年間で大きく増加している。とくに生産コスト9,600円以下の経営体では労働費、農機具費が低く、単収が高く、労働時間が短い。これに関連して直播栽培取り組み有無別生産コストをみると、各費目の生産コストはあまり変わらないが、直播栽培に取り組んでいる経営体は10a等労働時間が約1.4時間、割合にして10%短いことが特徴的であった。
・その他
米の生産コストを下げるためには、まずはコスト分析をする必要であり、コスト分析を通じて自身の農業経営を見える化することによって経営マインドが育まれる。その中で直播をどのように導入するかを農業者それぞれが考えてほしい。
③ 質疑応答
(質問)コメの生産コストのデータは食用米または飼料米のどちらを対象にしているか。
(回答)食用米を対象にしている。
(質問)条件が悪い水田に対する補助措置のようなものは考えられるか。
(回答)地域の状況に応じた(例えば環境保全、鳥獣害対策、粗放的農業など)補助事業を活用することも考えられる。
(質問)生産コストについて技術内容別(乾直と湛直等)に解析したデータはあるか。
(回答)統計データは限られるので、米の生産コスト低減事業の成果を分析していきたい。
(質問)直播の効果について春作業の省略から園芸作物の取り組みが可能になった例もあるので、コスト面以外の考慮も必要と考える。
(回答)直播の効用として取り上げていくべきと考える。
(質問)北海道で直播が伸びている理由は何か。
(回答)岩見沢等で協議会が新たに立ち上げられた効果などによるものと考える
秋田県鹿角市での現地研修会に行ってきました 令和5年(2023)6月20日
秋田県の北部、青森県や岩手県に接する鹿角市では、低アミロース米品種の「淡雪こまち」が全て湛水直播栽培で生産されています。「JAかづの」の取り組みとして管内の農業者が生産していますが、低アミロース米の特徴を活かし、「玄米を炊飯すると玄米特有の硬さがなく、ふっくらした炊き上がりでプチプチした食感が楽しめます」などのPRで販売を促進されています。今回、6月20日に秋田県鹿角地域振興局の主催で現地研修会が開かれ、当会も出席要請を受け行ってきました。
鹿角市へは、東京から東北新幹線で盛岡下車、大館行きの高速バスで鹿角花輪駅(JR花輪線)など市内各所のバス停まで約4時間で着きます。この日は梅雨の中休みので天候に恵まれて結構な陽射しがありました。
振興局農業振興普及課長の挨拶ののち、ご担当の主査より本年度の播種以降の気象経過、管内直播圃場全般の生育状況と特徴について説明いただきました。研修では2か所の圃場(用野目圃場、八幡平栃木川原圃場)を巡回し、当直播研究会メンバーが圃場に入るなどして出席者に講評やコメントを行うとともに農業者等からの質疑に応答しました。以下はその概要です。圃場の場所は国土地理院地図のハイパーリンクを示しました。開いた画面の十字点がおおよその位置です。
鹿角市八幡平ほ場で説明する当会委員
A:花輪用野目圃場(標高約120m。場所は→地理院地図 / GSI Maps|国土地理院)
・分げつ促進のための落水中であり、田面は立ち入っても沈まない程度に乾いていました。県による6月上旬の調査では茎数、草丈、葉齢は平年より少なめでやや生育に遅れがあるとのことでしたが、調査時から10日以上日経たこの日時点では、生育は回復しつつある印象でした。イネの最大葉齢は生育の進んだ個体で7葉がほぼ抽出する段階で、全体では5~6葉期にあるようでした。1号~3号までの下位分げつを確保しつつあるようでした。ただし、全体に生育個体の格差が大きく、これは播種後の低温が影響した可能性があると考えられました。気温以外の気象要因として、苗立ちや初期生育に与える風の影響も大きいので、この点も考慮が必要と伝えました。ご担当の主査から、「そういえば、農業者から“今年は風の強い日が多い”」と聞いたと」との話がありました。次回検討会には直播の苗立ちや初期生育における風の影響について、資料を提示して説明を行うことを伝えました。6月上旬の調査で苗立ちがやや少ない結果が示されましたが、播種量不足など播種作業の問題によるものでは無いことを確認しました。
・タイヌビエの残存が認められ、残存個体は①6~7葉で障害なし、②4~5葉で一部に縮葉症状、③2葉程度、の3種類があることから、播種同時剤の効果が不十分だった、入水後処理剤の効果が不十分であったなどの要因が考えられました。今後、②③を抑えるためノビエ対象の後期除草剤を散布する必要があるが、①の個体には効果を示せる剤はないことを伝えました。
B:八幡平栃木川原圃場(標高約150m。場所は→地理院地図 / GSI Maps|国土地理院)
・有機物連用を実施しており、今年は昨年の600㎏/10aからやや減らした500kgを入れたそうです。地力培養取り組みが反映したこともあり、生育は全般に用野目圃場よりもやや優る印象で最大葉齢個体は7葉期に入り始めており、平均的には6葉期程度であった。用野目圃場よりも個体格差が小さく生育が揃っている印象でした。
・外観品質評価の実情について、JA担当者に聞き取りをしたところ、低アミロース品種の特性として白粒率が多いことが基本にあるが、JAとしてはうるち米同様に白粒の少ないものを要望する実需者も多いことから、白粒が少なくなるような生産、乾燥調製を求めているとのことでした。ただし、白粒率が多い生産物を要望する実需者もあるとのことでした。低アミロース品種は低温登熟下で低アミロース性の証である白粒率が減る傾向があります。基本的に低アミロース米の粘りが強い食感はアミロース含有率が低い(白粒が多い)ほど顕著になります。しかし、低アミロース品種の食感は必ずしもアミロース含有率だけで全てが決まるものでは無いとする知見も最近示されつつあり、今後注目する必要があります。
・雑草では、タイヌビエと藻類が見られ、またシズイおよびイヌホタルイが全体に散在し、クログワイ・セリが畦際にチラホラと見られました。残存するタイヌビエで6葉程度の個体はわずかなので、播種同時剤の効果は十分に発揮されたと考えられました。4葉程度で再生育の個体が見られましたが、これは入水後処理剤の効果が変動した可能性が考えられました。クログワイ・セリは畦際に限定されているので大きな問題とならないが、シズイは全体に残り、草丈10cmで増殖用の根茎の伸長が見られるので対応が必要です。藻類は害にはなりません。以上を考えると、今後「ノビエ+広葉雑草対象の後期除草剤」を処理する必要があります。
16時には研修会は終わりましたが、鹿角地域では「あきたこまち」「めんこいな」などの品種も栽培されるほか、花輪盆地や周辺中山間地の標高差、冷涼な気候、夏の昼夜温温度差などの気候資源を利用した、高品質なキュウリ、トマトなど果菜類の栽培、りんごやももなど果樹の栽培も盛んです。中でもももは「かづの北限の桃」として市場に出荷されており、桃の主要産地の山梨県より1ヶ月、福島県より2週間ほど後に収穫、出荷されることを最大限に活かした販売体系を確立されています。
宮城県 JA加美よつば直播栽培研究会の播種後1か月半の湛水直播水稲を観察しました 令和5(2023)年6月27日
宮城県西北部、県の穀倉地帯である大崎平野の西端で4つのJAが「よつばのクローバをめざして」広域合併してできたJA加美よつば農業協同組合(JA加美よつば)では、組合員で構成する直播栽培研究会が水稲直播研究会との連携で湛水直播栽培に取り組んできました(本サイトに既掲載の「加美よつば」関係の記事をご参照ください)。播種後約1か月半を経過した6月27日の午後に、昨年に続いて対面で開催された現地検討会に巡回指導員として農水省農産局穀物課の2名の担当官とともに松村会長以下当会のメンバー4名が参加しました。3筆の直播ほ場において生育状況や雑草等管理状況について調査して助言・指導を行いました。また、今回はほ場巡回後に室内での学習会が持たれました。
ほ場の観察と助言などの詳細、および学習会の内容を以下に紹介します。
写真-1 湛水直播ほ場で解説する本会メンバー
Ⅰ:ほ場巡回
1. A氏ほ場(前年は移植水稲)
1). 苗立ちと生育状況
このほ場(24a)では品種「ハイブリッドとうごう2号」の鉄コーティング鉄コーティング種子を用いた湛水直播栽培(播種量3kg/10a)を実施していました。播種は点播で播種日は5月8日、播種後は5月16~20日に落水管理を行いました。苗立ち状況は全般には疎(1株個体数1~3本)で草丈45cm、葉令7.8、分げつは第1節から2次分げつも含めて大きく太い分げつが確実に発生して1個体当たりの茎数8本と、初期分げつ発生に優れているというハイブリッドライス特有の生育を示していました。苗立ち状況は疎でしたが個体当たりの茎数が多く、着粒能力が高いというハイブリッドライスの特性から見て籾数の確保は容易と考えられましたが、苗立ちの薄いところを考慮してもう少し茎数を確保するために当面は浅水管理とすることを推奨しました。
2). 雑草防除の状況
ジカマック500g粒剤(5/8播種同時:ピラゾレート・ベンゾビシクロン・メタゾスルフロン)+アビログロウMX剤(5/28:ピラゾスルフロンエチル・ピリフタリド・メソトリオン・ブロモブチド)の体系で、雑草ヒエなどの残存なく、雑草制御は良好でした。生産者は「土壌の関係で籾が深く入って出芽が悪い部分があった」とのことでしたが、イネの欠株で空いた部分に本葉2対程度のアゼナ類が散在しました。2回目の剤には「根の露出する条件では・・・注意する。」と表面播種での注意事項があるので、今後留意を要します。
2. B氏ほ場(湛水直播水稲の連作)
1). 苗立ちと生育状況
このほ場(64a)では品種「つきあかり」のカルパーコーティング種子を用いた湛水土中直播(播種量4kg/10a)を実施していました。播種は点播で播種日は5月3日、播種後は5月4~12日に落水管理、5月27~29日に4葉期落水を行いました。苗立ち状況は良好(1株個体数4~6本)で草丈41cm、葉令7.3、分げつは第1,2節の1次分げつ少で1個体当たりの茎数4本と穂重型品種の太くて少ない分げつ特性を示す生育状況でした。本品種は大粒(千粒重24~25g)で昨年の播種量3kg/10aでは苗立ちがやや疎であったので播種量増加の助言が行われた結果、本年は良好な苗立ちになったものと考えられました。圃場状態は軟らかく、根も褐色とやや還元状態であること、また目標茎数(1株25本)を達成しそうな状況であることから中干しを開始することを提案しました。
2). 雑草防除の状況
イッポンフロアブル(5/19:ピラクロニル+ブロモブチド+ベンスルフロンメチル)+ゲパードジャンボ(6/19:メタゾスルフロン+ベンゾビシクロン+ピラクロニル+ダイムロン)の体系で、雑草ヒエの残存はほとんどなく、雑草制御は良好でした。昨年、残存雑草への中・後期剤を見送ったところ、生育・繁茂したことの反省で、中・後期剤を組み合わせたことが効果を発揮しました。草丈10cmを超えるイボクサがほ場内部に侵入しているので対応することが望ましいです。例年同様に条間にイネが多数発生しており、採取した15本のうち9本の籾に種子塗沫剤の痕跡が見られたので、残りの6本、40%は漏生イネと考えられました(ただし、前年も同じ品種なので問題は小さいと思われます)。
3. C氏ほ場(湛水直播の連作で前年はダイズ作)
1). 苗立ちと生育状況
このほ場(82a)では品種「ひとめぼれ」のカルパーコーティング種子を用いた湛水土中直播(播種量2.9kg/10a)を実施していました。播種は点播で播種日は5月3日、播種後は5月3~13日に落水管理、6月5~8日に4葉期落水を行いました。苗立ち状況は良(1株個体数3~5本)で草丈33cm、葉令7.1、草丈はハイブリッドライスや「つきあかり」より低く、分げつは細いが第1節から着実に発生して1個体当たり6本と日本型の穂数型品種の特性を示していました。前日に中干しのための溝切りを行っており、茎数確保もできているので適切な管理と考えられました。C氏の圃場の特徴としては前年と同じく、苗立ちの揃いが非常によく、一見して移植の圃場のように見られることでした。その理由について後程伺ったところ、丹念な代かき作業にあるのではないかと推測されました。
2). 雑草防除の状況
カイリキZジャンボ(5/20:イプフェンカルバゾン+テフリルトリオン+プロピリスルフロン)のみ。雑草ヒエがほとんどなく、(この剤の「直播水稲」での適用雑草の外ですが)多発するオモダカは線形葉の段階に抑制されており、散在するイヌホタルイとともに、除草効果は良好で、一発処理型除草剤の1回処理で済ませる模範的な例です。加重型積算有効気温で「アメダス古川」のデータを用い、5月1日代かきとして予測したタイヌビエ3.0葉の日は5月21日でしたので、「ノビエ3.0葉期」を晩限とするこの剤が使用期限内で処理されたことがうかがえます。畦沿いのセリ・アシカキの内部への侵入に注意しましょう。
Ⅱ. 室内学習会(JA加美よつば営農センター会議室)
1).最近開発された水稲直播作業機械等について(水稲直播研究会富樫中央委員)
(説明)最近開発された播種作業機械について、①自動飛行ドローンに搭載できる水稲の土中打ち込み播種機、②水稲根出し種子による無コーティング直播栽培の適応性、③乾田直播栽培技術マニュアル ―プラウ耕鎮圧体系―、④高速高精度汎用播種機を活用した作物栽培体系標準作業手順書が紹介されました。
(意見等)宮城県東部の石巻等の地域では震災の復興支援の一環としてプラウ耕鎮圧乾田直播が導入されていますが、当地域では一区画面積が小さく、粘土質土壌であり大規模乾田直播には向かないことから湛水直播を基本としています(加美よつば直播栽培研究会)
2). 米の生産コスト低減について(農水省穀物課神田課長補佐)
(説明)コメの生産コストは徐々に低下しているものの、令和3年産時点で、認定農業者のいる15ha以上の個別経営体の全国平均で10,496円/60kgであり、令和5年産までの政府目標である9,600円/60kgは未達の状況であることの説明がありました。農林水産省が米の生産コスト削減に向けて令和4年度から措置している「稲作農業の体質強化総合対策事業(上限1,000万円/コンソーシアム)」が紹介されました。本事業を通じて、直播を始めとした様々な技術を組み合わせるとともに、しっかりとコスト分析をすることで、安定的な水稲経営に結び付けることが期待されます。
(意見等)私どもは20年以上直播栽培に取り組んでおり、技術的には安定しているが今後、若い後継者を如何に確保するかが課題です(加美よつば直播栽培研究会)。
写真-5 JA加美よつば営農センター会議室での室内学習会
8月下旬に予定される次回の現地検討会で、登熟期の直播水稲の観察が楽しみです。
岩手県(滝沢市・八幡平市)で現地研究会を開催しました 令和5年(2023)8月21日
当研究会では会員ほか関係者向けに毎年、現地研究会や検討会を実施しています。本年度は岩手大学が開発に取り組んでいる「初冬播き水稲直播技術」をテーマとして取り上げ、8月21日の午後半日、同大学農学部付属農場(寒冷フィールドサイエンス教育研究センター滝沢農場、岩手県・滝沢市)、(株)かきのうえ初冬直播き栽培実証ほ場(同・八幡平市)にて開催しました。
「初冬播き水稲直播技術」は岩手大学農学部作物学研究室の下野裕之教授らが開発と普及を進めている技術です。農閑期の初冬に種籾を土中に播種し雪の下で越冬させ、雪解けとともに出芽した稲を育て秋収穫する作型の水稲直播です。水稲作の作型を、第1の作型「春の移植」、第2の作型「春の直播」とした場合、この栽培方式は第3の作型「初冬の直播」であり新たな水稲作の選択肢になるとしています。技術のメリットは、何といっても準備作業を含む播種作業を農閑期に行うことによる作業分散効果です。農業担い手層の減少にともない、全国で、大規模農業者への離農農家の農地集中あるいは耕作依頼や作業委託が増加しています。しかし、これまでの第1、第2の作型(春の移植、直播)だけでは受け手の大規模農業者が対応できない局面も生じています。この状況に応え、春作業が大きく緩和できる技術として「初冬播き水稲直播」が提唱されています。播種自体は従来の乾田直播や湛水直播の手法で行うため、新規の機械投資が要らないこと等も利点として挙げられます。
当日は13時半から滝沢農場で室内検討と場内試験ほ場の見学を行い、その後、借り上げバスで八幡平市の実証ほ場を訪問しました。
室内検討では、下野教授から本技術の基本と開発・普及状況についてご説明いただきました。すでにご紹介した技術のコンセプトやメリットのほか、これまで全国の9道県、10品種、5種類の播種機で実証を行い有効な技術と認識していること、栽培のポイントとして初冬の播種適期、種子コーティング剤、播種時の留意点、施肥法、雑草防除法などを紹介いただきました。これらの情報はイネ初冬直播きの発展と普及を進める会のWeb サイトに公開されていますので是非ご覧ください。
→ Home | イネ初冬直播き (fuyugoshi.wixsite.com)
下野教授によるご説明
ともに開発に取り組まれている由比 進教授(農場長)からは滝沢農場の概要を紹介いただきました。農場での教育面は無論のこと、研究開発においては世界初のモチ性ヒエの育成、ブルーベリーの国内最大規模雑種実生集団の育成、蜜入り・高糖度リンゴ「はるか」の育成、晩抽性ハクサイ新品種「いとさい1号」、 ミニトマトによる「メンデルの法則体験」、クッキングトマト品種「すずこま」の育成などを説明いただきました。由比教授ご自身は野菜がご専門で、初冬直播き水稲直播は野菜の周年生産で見られる「作型」の考え方を稲栽培で実現した画期的技術と考えているなど興味深いお話をいただきました。
由比教授によるご説明
試験ほ場見学では西 政佳技術専門員のご説明で「あきたこまち」10a 区画2筆の栽培ほ場を見学しました。令和4年11月 9日に前年産種子をキヒゲンフロアブル粉衣しグレンドリル播種、条間 24cm と 12cmでの生育・収量を検討しているとのことでした。積雪期間は 88 日で消雪後に鎮圧 を行い出芽は 4 月 25 日で、出芽率は約35%で苗立ち数は100~200 本/㎡と予定通りとなったそうです。 除草体系は出芽前に非選択性除草剤を施用したが今年は稲の出芽が早く(例年は 5 月 10 日頃)雑草があまり出芽していなかったのでその効果は疑問があるとのこと。出芽後にクリンチャーバスを処理したが残草が認められたのでさらにノミニーを処理し、入水後に一発剤を施用。そのほか施肥は緩効性肥料を施用している、立地的に漏水の多い圃場なので雑草防除、肥効維持に苦労しているなど説明いただきました。見たところ、2筆とも出穂 10 日前後のステージにあり、稲の生育揃いは良くまずまずの生育との印象でした。稈長は 80cm 前後で倒伏の恐れは少ないようでしたが、肥効が少なかったせいか穂数および1穂籾数がやや少なく達観で500kg 前後の収量かなと思われました。
初冬播き直播試験ほ場の状況
滝沢農場で室内検討と圃場見学を終えたのち、バスで30分離れた八幡平市の(株)かきのうえ初冬直播き栽培実証ほ場に向かいました。圃場は西に八幡平の山々と安比高原スキー場、南に岩手山を臨む北側、東側が開けた見通しの良い小盆地にあり、標高は滝沢農場が208mでしたがここは266mとさらに高くなっています。(株)かきのうえは八幡平市で8代続く稲作農家で、3年前に法人化し、水稲(飼料イネを含む)・大豆・小麦の作目で40ha以上の面積(借地を含む)を耕作されています。他に乾燥調製や薬剤散布等の作業受託、Web での農産物販売、マルシェ、ふるさと納税、など手広い経営をされています。水稲直播は平成27年度から鉄コーティングなどを行ってきた実績があるそうです。今後、間違いなく増える離農者の耕作地を受け止めるには従来の移植栽培では労力・機材や資材・作付け期間の点で限界があると考え、初冬直播を導入することで面積拡大に備えたいとされています。圃場の前で代表の立柳慎光代表から技術導入の動機、初冬播き直播の実施状況と手ごたえ、今後の計画などをお話しいただきました。
以下、実施状況ですが、初冬播き直播の実証は3年目になるが、「あきたこまち」での収量は 2020/21(播種年/収穫年) 、2021/22ともそれぞれの春移植と同程度の好成績を得ている。本年は「あきたこまち」の他に「つきあかり」を導入し 出芽・生育ともに良好な経過を辿っている。播種は令和4年 11 月 12~13 日にキヒゲン R-2 フロアブルなど処理籾を播種量18~20kg/10a、ニプロ製スリップローラーで播種。出芽は 5 月 5 日で6 月 15 日の苗立ち調査では苗立ち数はかなり多くなった。施肥は乾田直播 211 号(N12kg/10a)、雑草防 除は初中期一発体系と雑草が多い時はクリンチャーバスを施用しているが本年は初中期一発剤のみの施用(アシュラフロアブルのドローン滴下)。
見たところの稲の生育状況は、苗立ち数が多かったためか非常に穂数が多い密な生育状況で、稈長も85~90cm 程度あって倒伏の恐れが心配されました。雑草防除ですが、イネ出芽前の非選択性除草剤処理については、周辺の水田での移植時期と重なるためできていないとののことでした。しかし、雑草の発生の少ないほ場とのことで、アメリカセンダングサなど入水前の雑草がわずかに残り、アメ リカアゼナのあと発生が見られるものの、雑草管理は良好でした。これまでのところ実施して「失敗していない」ことが逆に不安であると言われたこと、来年から圃場整備が行われるのでそれ以降に初冬播き直播を本格的に取り入れた経営を進めたい、食用米・飼料イネ等の用途の違いや品種早晩性の違いなどを考慮し、どの品種を移植で、春まき直播で、初冬播き直播で栽培するのかを考えて作付け計画を立てたい、など元気のでる積極的なご発言が印象的でした。
当日は当会会員のほか、農林水産省や農研機構の関係者も多数参加され、北東北にしては大変暑い日(盛岡市最高気温34.9℃)でしたが検討会を終えた夕刻には暑さもおさまり、高原からの風が涼しく吹いていました。
最後に、岩手大学農学部に関しては、その研究と技術開発を広く農業者等とともに進めてきた何か伝統のようなものを感じていましたが、今回の「初冬播き水稲直播技術」の検討会においても、その伝統は引き続き強く引き継がれているなあと感じ盛岡を後にしました。今までのところ、東北地域など北日本向けの技術として開発・普及が進められていますが、東北以南の東日本あるいは西日本でも適用できる条件等を探ってきたいとのことでした。
直播水稲の収穫前年の秋以降に行う取り組みは、かつて姫田正美氏などにより検討されことがあります。また、太平洋戦争中の労働力不足の時期には冬から春の初めに麦の畝間に播種する麦間直播が関東などで普及し、現在も一部で続いており、最近は新たな開発の取り組みも行われています。なので、作型移動の取り組みは「冬播き直播」が初めてとは言えないと考えます。しかし、大規模層への農地集中に対応する作業分散技術として正面からメリットを掲げ、播種時期を大胆に変えるものとして注目すべきものと思います。加えて、本技術においては、その年の天候やほ場土壌条件が成否を大きく左右すると考えられるので、基本技術を骨子として、いかに農業者が自己の技術力を駆使し状況を判断して作付け設計や栽培管理を行って行くかが重要と言えるでしょう。その意味でも研究・普及と農業者の協力は欠かせないものと思いました。
宮城県 JA加美よつば直播栽培研究会の登熟後期の湛水直播水稲を観察しました
令和5(2023)年9月1日
稲作を中心に長年にわたる「水」の管理と調整システムを評価された世界農業遺産「大崎耕土」の水源地の位置を占める宮城県北西部のJA加美よつば農業協同組合管内では、「直播栽培研究会」が組織され、水稲直播研究会との連携の下で年に数回の現地研究会を開いて湛水直播栽培技術の向上に努めてきました。全国的に異常な暑さが続いた令和5(2023)年、この日も残暑が猛暑となった9月1日の午後に本年2回目の現地検討会が開催されました。本研究会から2名の委員が出席し、約10名の参加者と登熟後期に達した3筆の直播栽培ほ場を観察してイネの生育状況と雑草制御の状況に助言し、その後室内の学習会で話題提供を行いました。以下にその概要を紹介します。
なお、JA加美よつば直播栽培研究会の現地研究会については、本研究会HPの「2023年6月27日」、「2022年9月29日」、「令和4(2022)年6月」の記事および会誌42号の記事(p.46-51、2019)も併せてご覧ください。
Ⅰ.ほ場巡回
1. A氏圃場
(稲の生育状況)
稲作を中心に長年にわたる「水」の管理と調整システムを評価された世界農業遺産「大崎耕土」の水源地の位置を占める宮城県北西部のJA加美よつば農業協同組合管内では、「直播栽培研究会」が組織され、水稲直播研究会との連携の下で年に数回の現地研究会を開いて湛水直播栽培技術の向上に努めてきました。全国的に異常な暑さが続いた令和5(2023)年、この日も残暑が猛暑となった9月1日の午後に本年2回目の現地検討会が開催されました。本研究会から2名の委員が出席し、約10名の参加者と登熟後期に達した3筆の直播栽培ほ場を観察してイネの生育状況と雑草制御の状況に助言し、その後室内の学習会で話題提供を行いました。以下にその概要を紹介します。
なお、JA加美よつば直播栽培研究会の現地研究会については、本研究会HPの「2023年6月27日」、「2022年9月29日」、「令和4(2022)年6月」の記事および会誌42号の記事(p.46-51、2019)も併せてご覧ください。
6月27日の調査では苗立ちは疎(1株個体数1~3本)であったが、圃場内で大きく抜けた部所は認められませんでした(写真1)。分げつの発生はハイブリッドライス特有で多かったので(茎数6~8本/個体)、穂数の確保については問題なしと判断されました。その後8月6日にタキコート流し込み肥料10kg/10aを施用し、出穂期は8月16日でした。今回の観察では稲は圃場全体で旺盛な生育を示しており、病虫害の問題点はとくに認められませんでした(写真2)。生育調査では、稈長95cm、1株穂数16本/株、1穂粒数150粒でした。㎡当株数を18(坪60株仕様)、登熟歩合を60%、千粒重21gと仮定した収量は約9俵(18x16x150x0.6×21/1000=544kg)と推定されました。
6月の観察ではイネのすき間にアゼナ類が僅かにみられる程度で雑草制御は良好と思われましたが、雑草があと発生したようで7月15日にワイドアタックSCで3回目の剤を処理したとのことです。アメリカアゼナがほぼ全体に、イネ草冠の上に出穂したタイヌビエとイヌビエが2辺の畦沿いにやや多く、チョウジタデ、オモダカ、イボクサが少し残り、部分的にイネ科多年生雑草のアシカキとチゴザサが畦から侵入しています(写真-雑-1)。3回目の除草剤の効果が不十分な要因や、アメリカアゼナがスルホニルウレア抵抗性か、遅発生かの要因などを検討する必要があります。
2.B氏圃場
(稲の生育状況)
6月27日の調査では、使用品種「つきあかり」が穂重型で千粒重が大きいことから松村会長からの播種量増の提言を受けて4kg/10aで播種を行ったため苗立ちはやや多(1株個体数4~6本)であり、全体としてやや密な生育でした(写真3)。その後7月25日にタキコート流し込み肥料3kg/10aを施用し、出穂期は8月1日でした。今回の観察でも稲の繁茂量が大きく多収型の生育と認められました(写真4)。生育調査では、稈長85cm、1株穂数は穂重型なので苗立ちの割には多くなく20本/株、1穂粒数90粒でした。㎡当株数を18(坪60株仕様)、登熟歩合を80%、千粒重24gと仮定した収量は約10俵(18x20x90x0.8×24/1000=622kg)と推定されました。
(雑草制御の状況)
6月の観察では雑草制御は良好で雑草ヒエの残存はほとんど見られませんでしたが、あと発生でイネの上に穂を出したタイヌビエが散見され、また、イネの中で出穂した個体が多数みられ(写真-雑-2)、依然として雑草ヒエを見据えた防除が必要です。オモダカの個体数は「少」ですが、畦沿いのみでなくほ場内にもイボクサが生育し(写真-雑-2)、対応が必要です。開花前なので収穫予定の9/20までには結実しないとみられますが、刈跡での結実防止、次年度の除草剤の選択などに留意してください。
3.C氏圃場
(稲の生育状況)
6月27日の調査では、使用品種「ひとめぼれ」の苗立ちは良好(1株個体数3~5本)であり、全体として株間の生育量の差異が小さく均質な生育でした(写真5)。その後8月1日にNK4kg/10aを施用し、出穂期は8月7日でした。今回の観察でも稲の生育は整然としており、移植と思われるような状況でした(写真6)。生育調査では、稈長80cm、1株穂数は25本/株、1穂粒数やや少なく75粒でした。㎡当株数を18(坪60株仕様)、登熟歩合を85%、千粒重21gと仮定した収量は約10俵(18x25x75x0.85×21/1000=602kg)と推定されました。より増収の可能性はあったが、穂肥の施用時期が出穂期に近かったために1穂粒数増加への効果が小さかったことが残念でした。
(雑草制御の状況)
6月の観察で雑草ヒエが見られず、オモダカが強く抑制され、ごく良好な雑草制御としましたが、その状態が維持されており、一発処理型除草剤の1回処理で済む模範的な例です。オモダカは線形~ヘラ形葉の生育段階に抑制され、クサネム、タケトアゼナがごくわずか生育しています(写真-雑-3)。畦沿いのアシカキの動向に留意してください。(隣接の湛直ほ場では、クサネムがやや多く、アメリカアゼナ、タケトアゼナ、コナギなどが生育しています。)
Ⅱ.室内学習会(JA加美よつば2階会議室)
1. 2022,23年の圃場観察から見た湛水直播水田の雑草の状態(水稲直播研究会森田委員)
(説 明)約8年間、当地の直播水田の雑草制御を観察し、失敗例もありますが全体として翌年増加させない一定の雑草量に抑えていると見ています。初期剤+一発処理型剤、一発処理型剤+中・後期剤および一発処理型剤のみ、の処理でとりくまれており、一発処理型剤の1回処理で済むほ場の多いことが全国の模範です。2022、23年のT氏のほ場でタイヌビエの葉齢を推定すると除草剤使用日には晩限の葉齢に達していないので、雑草ヒエの生育の特徴と剤の適正使用が相まって「1回使用」を可能にしています。22年のイヌホタルイ残存は代かき~播種の日数が長かったためと推定されます。イネ株基部の籾の状態で漏生イネを見分けられるので、雑草イネと併せて動向を警戒してください。2年の観察で「ほ場ごとのターゲット雑草種」を作成・提示しました。雑草の状態は変化するため随時改訂します。個々の除草剤適用条件を確認して安全使用に努めましょう。
(意見など)
Q:(雑草イネ・漏生イネ対象の)石灰窒素はタニシにも効きますか?
A:石灰窒素の使用基準のうち除草作用のみを示しました。成分のカルシウムシアナミドからできる遊離シアナミドに貝防除の効果があります。
A:九州ではスクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)の防除に使用するのでタニシにも効くと思います。
(タニシについていろいろな意見交換)
Q:除草剤の処理晩限に加えて、イネの生育段階も重要ではありませんか?
A:早限は剤ごとにイネの生育段階で示されますが、当地ではイネの出芽・苗立ちに問題ないので省略しました。イネの生育が遅く、雑草ヒエが早く育つ条件では初期剤で雑草ヒエを抑えることになります。
Q:中・後期剤にも使用開始にイネの葉齢が示される意味は何ですか?
A:「イネ5葉~」は、ホルモン系剤などでイネへの薬害回避のためです。
2. 情報提供:本年の高温が稲に及ぼした一例(水稲直播研究会椛木委員)
(説明)本年の異常高温が農作物に及ぼす影響について懸念されており、稲についてもその内に明らかになると考えられますが、昨日(8月31日)茨城県で知り合いの農家が行った収穫の結果について報告します。「ミルキークイーン」の連年の移植栽培で9~10俵/10aの収量を得ていますが、本年は8俵以下と少ない状況でした。屑米率は例年は5%内外ですが本年は10%程度と高くなりました。乾燥前の籾水分含量は21%(例年は30%前後)と低く、圃場においてすでに乾いた状態にあったと推測されます。その後精米したところ割れ米が多かったという情報も得ています。
(意見など)
Q:今年のような異常高温時に田に水を張るとかえって水温が上がってお湯のようになり、それが白未熟粒を増やす、ということはありませんか?
A:高温下で水分が少ないと登熟に悪影響が出ると考えられますので、田に水を張っておいた方がよいと考えます。水の張り方については飽水状態や浅水だとお湯のようになってしまいますので十分に張り、ある程度深水にしておいた方がよいと思います。
異常な高温の夏で、直播水稲の収量や品質への影響を気にしながらも、JA加美よつば直播栽培研究会の皆さんは、ほ場巡回や夜の反省会で次年度作付けでの改善点などの話で盛り上がっていました。引き続き水稲直播研究会との連携をお願いします。
長野県主催世代間研修会に出席、講演しました 令和5年(2023)11月15日 長野市
近年、国、自治体、民間企業を問わず多くの事業所において50代以上の定年を迎えるいわゆるベテラン世代と若年層世代における様々な経験、技術、ノウハウの継承が問題になっています。水稲直播栽培の技術開発と普及において先進的実績がある長野県でも、農業技術普及推進において同様な問題意識を抱えておられ、この度、同県農業農村支援センターの若手普及職員を対象に「令和5年度世代間研修(作物)」が開催されました。当会にも水稲直播栽培技術開発の歴史等について話題提供をとの要請があり、松村会長、森田委員、椛木委員が出席しました。椛木委員は「水稲直播栽培技術開発の推移」の講演を行いました。抜粋を末尾に付けましたのでご覧ください。
講演では、①戦後稲作の推移と機械移植技術の普及、②直播栽培技術の開発経過と現状、③直播栽培発展のための方策、の3つの視点が提示されました。①では、戦後稲作の全般的推移の中で単収が伸びるとともに機械移植が開発・普及したこと、②では、その推移の中でコスト低減や担い手減少が問題となりより省力的な直播栽培の技術開発が進んだこと、③では今後の技術開発の方向性や展望について豊富なわかりやすいスライドを示して説明しました。補足として、松村会長が「直播技術はそれ単独ではなく稲作における直播・移植の両技術の発達との視点で捉えていただきたい、稲作での直播の位置づけ単純な低コスト性からその導入による省力性や作期分散効果等による幅広い経営改善が利活用ポイントになって来ているので、地域農業にいかなる特徴を活かすのかをお考えいただきたい。」とコメントしました。次に森田委員から、「直播栽培に不可欠の農薬登録された除草剤は以前は非常に少なかったが、今年初め時点では登録剤は555剤あり「直播で使える剤が少ない」状況は無くなっている、適正使用には技術が必要なので普及現場で各材の登録内容に留意し活用していただきたい。」とコメントしました。現在の登録剤数を語った際には室内に静かな驚きの声が上がりました。
続いて具体的なテーマとして、県職員OBや現役ベテラン普及担当者、農業試験場研究職員、全農長野の講演者から、長野県での直播栽培の技術開発と現場普及取り組みに関するお話、直近のリゾケア剤の話題、また今年とくにクローズアップされている鳥獣害被害対策などの講演がありました。県内各所から参集された若手普及職員からの質問や意見・感想も活発で、大変に有意義な研修会でした。今後も引き続き水稲直播研究会にお声がけいただけることを期待します。
「世代間研修(作物)」の会場で講演する椛木委員
水稲直播栽培技術開発の推移(抜粋)
水稲直播研究会中央委員 椛木信幸
この表は戦後から現在に到るコメの生産状況を示したものです。1945年の終戦とともに農地改革等の民主化と食糧増産のための米作日本一奨励事業等の食糧不足解消のための活動が精力的に進められました。一方で食管制度の下における米価支持や灌漑施設整備等の生産振興策が実施されました。その結果高度経済成長が進展した1960年代後半からコメ余り現象が起こり、1971年にはコメの生産調整のための減反政策が実施されました。さらに1960年代の後半から機械移植技術が普及して単収増加と生産の安定化により生産過剰と転作促進が加速されました。このような状況の中でGATT、WTO等による貿易自由化の圧力による国際化へ対応した生産費の削減が要請されるとともに、農村の過疎化と担い手の高齢化により中核農家への土地集中が進行して大規模化の必要性が高まってきている状況にあります。
我が国では昭和30年代(1960年前後)から経済の高度生長時代に入り農村から都市へ人口が移動したため手植えのための労力が不足してきました。ちょうどそのころプロパニルのような乾田直播で入水前に用いることができる除草剤が開発されたこともあり乾田直播を中心に普及が拡大し、1974年時点で55,000haにまで拡大しました。
しかし同時期に普及が始まった機械移植栽培の影響を受けて急激に縮小し、1991年には7,200haにまで落ち込みました。また、この時期には湛水直播栽培における重要な技術である過酸化石灰種子粉衣技術、安全性が高いピラゾレートのような除草剤が開発され、湛水土壌中直播の普及が始まっています。直播栽培技術の開発が加速されたのは1994年から実施された日本型直播実証事業からであり、官民一体となった活動の中で各種直播方式、適性品種、直播用除草剤、高精度播種機、種子コーティング技術等の開発が行われました。現段階における直播方式の定義、地域別の栽培面積、各種栽培法とその特徴等について紹介いたします。
直播栽培が今後とも発展していくための2本の柱として1.構成要素技術の開発と2.現場における持続的システムの確立が挙げられます。
1.構成要素技術の開発では①高度倒伏抵抗性・低高温耐性・病虫害抵抗性等の品種開発、②水田造成・潅排水、畦畔管理等に関わる基盤整備技術、③高精度播種機・圃場管理機・空中防除機等の機械作業技術、④施肥・水管理・栽培指針等に関わる栽培管理技術、⑤除草剤・殺虫殺菌剤・鳥貝害防止等の防除技術の開発が重要です。
2.現場における持続的システムの確立では、①地域の条件に即した直播栽培法の確立、②直播のメリットを生かした活用、および③生産と販売戦略の確立が重要となります。本日はこれらについて現在までに達成された事例について紹介いたします。
収穫を前にした直播水稲を見てきました(宮城県JA加美よつば管内)
残暑もようやく過ぎた9月29日、宮城県のJA加美よつば水稲直播研究会にお邪魔し、今年度から取り組まれている水稲品種「つきかり」試作直播圃場、そしてその対照として従来からの「ひとめぼれ」直播栽培圃場を観察、調査して来ました。苗立ち期までの様子は、このページの下部“1.活動報告【令和4年6月:水稲の苗立ち期にいろんな圃場を見てまわりました】”に掲載しています。初めてご覧になる方は、まずそちらを見ていただくと判りやすいと思います。
【直播試作「つきあかり」の成熟期のようす】
JA加美よつばでは、本年度初めて「つきあかり」を直播で栽培試作されています。「つきかり」は「ひとめぼれ」よりやや早生で、食味も同程度と良好、何よりも倒れにくく多収なので最近注目を集めている品種です。とくに業務用米としての人気が上がっています。
そこで、当会ではJA加美よつばならびに同JAの直播研究会会長で栽培者でもある今野氏のご協力を得て、試作「つきあかり」と隣接する「ひとめぼれ」の直播田で成熟期の調査を実施させていただきました。
これらの圃場は5月末の苗立ち期調査で苗立ち数や初期分げつ芽の発生を確認し、両品種の苗立ち密度や葉齢にあまり差が無いこと、「つきあかり」の苗長は「ひとめぼれ」に優るが、第1葉基部の分げつ芽が認められず、以降は分げつ発生を促すような水管理(浅水)にすべきことなどをお示ししました。
その後、分げつ促進のための水管理を実施いただいた結果、6月下旬の観察では、草丈の傾向はほぼ同じで「つきあかり」が長く、下位葉の分げつは「つきあかり」でも問題なく発生していることを確認しました。
・調査の方法
太さが中庸な稲株をそれぞれ20株選び、サンプリングして持ち帰りました。今回は量も少なくそういうことは無かったですが、大量の稲株を抱えてバス停や駅に居ると、「これは何ですか?生け花にするの?」と尋ねられたメンバーもいるようです。たしかに不審に思われるかもしれませんね。
さて、持ち帰った稲株1株ごとに最も長い稈(茎)を合計20本選り出し、稈長(付け根から穂首節までの長さ)、穂長(穂首節から穂のてっぺんまでの長さ)、1穂籾数を計測します。さらに稈から葉身と葉鞘を取り除き、裸になった茎の止葉節から根元に向って繋がる節と節の間(節間)を順に第Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ節間としてその長さ(節間長)を計測しました。
「つきあかり」、「ひとめぼれ」ともに第Ⅴ節間以下は1㎝未満だったので計測対象としませんでした。
基部の節間の太さを知るために第Ⅳ節間中央部の太さ(節間径)をノギスで計りました。サンプリング株をよく見ると、根に近い基部の節から遅れて出てくる遅発分げつの発生に違いがあったのでその数もカウントしました。以下、調査結果と考察を記します。
・個体株の形質について
「つきあかり」の稈長は10㎝程度明らかに「ひとめぼれ」よりも短かく、穂長は逆にやや長めで、1穂籾数は3割程度多く「なりました。これらは移植栽培における「つきあかり」の特徴出ある短稈穂重型を良く示しており、湛水直播栽培でも同様な形質発現傾向となることが解りました(表1、写真)。
また、「つきあかり」の特徴として、多くの株で基部節からの遅発分げつ芽発生が見られました(写真)。
成熟期の基部節からの遅発分げつ芽の発生は、光合成同化産物の穂への転流が終わるころ、稲体にまだ同化産物(炭水化物のうち、分解・転流しやすいでんぷんや糖類など)がある程度残存する場合に往々にして見られる現象であり、シンク容量とソース量の兼ね合いで生ずると考えられています。
今回、「つきあかり」でこの発生が観察されたのは、その品種特性であるほか、さらに多収化の可能性があることを示すのかもしれません。
今回の調査では坪刈による圃場全体での単位面積当たり穂数推定は行いませんでしたが、観察した限りでは「つきあかり」と「ひとめぼれ」の穂数に明らかな差は感じられませんでした。
最終的な全刈収量を見てみないと何とも断定できませんが、個体株の形質では1穂籾数が「つきあかり」でかなり多かったことから、「ひとめぼれ」に比べて多収が見込まれるのではないかと思われました。なお、調査株を見る限り、両品種とも登熟は良好でした。
・倒伏関連形質について
イネの倒伏には稈長のほか、基部節間長の長さや太さ、強度・剛性などが関係します。「つきあかり」は耐倒伏性が「ひとめぼれ」に優る一般的特徴がありますが、これは主に表1で示される稈長が短いことの寄与が大きいと考えられます。今回、基部節間(第Ⅳ節間)の長さを見たところ、「ひとめぼれ」との差はほとんどありませんでした(表2)。
一方で、第Ⅳ節間の太さは「ひとめぼれ」よりやや太いことがわかりました。この点も耐倒伏性の強さに影響すると推察されますが、さらに詳しい調査が必要と考えました。なお、圃場全体では「つきあかり」に倒伏は認められず、「ひとめぼれ」ではごく一部でなびき程度のものが見られた程度でした。
【その他圃場の状況】
帰路、D氏のひとめぼれ直播圃場に立ち寄りました。こちらは6月の研修会時に視察した際、苗立ちや初期生育、雑草管理がうまくいっていた圃場です。今回、成熟期に至っても特に問題はなく、順調に収穫期を迎えていました。一部になびき程度の倒伏が見られたが、これとてむしろ多収の証(あかし)であるように思いました。
D氏は隣接するひとめぼれ移植圃場の刈取最中でしたが、収量はまずまずとのことでした。この日時点で地域の移植ひとめぼれ収穫が進みつつありましたが、JA職員、今野会長、D氏の話によれば、本年の収量は平年並みであるものの玄米品質が素晴らしく良く、一等米比率99%以上の検査状況であるとのことでした。
品質の良し悪しは食味にも大きく影響します。今年のJA加美よつばの米はとびきり美味しいお米が期待できそうです。
令和4年8月:秋田県大仙市で現地研究会を開催しました
当会では、直播栽培技術の成果や情報について、主に会員向けに提供する研究会を開催しています。この2年間はコロナ禍の影響で開催しておりませんでしたが、今年度は、十分な感染防止対策を講じ、農研機構東北農業研究センターで開発・普及が進められている「水稲無コーティング種子代かき同時浅層土中直播栽培」をテーマとして現地研究会を開催しました。以下、概要をお伝えします。
主催:水稲直播研究会、 共催:農研機構東北農業研究センター
日時および場所:令和4年8月29日午後、秋田県大仙市
【播種実演ならびに現地実証圃の視察】
正午過ぎ、秋田新幹線等でJR大曲駅に集合した参加者約40名は、2台のバスに分乗し、東北農業研究センター大仙研究拠点、その後に市内2カ所にある現地実証圃場に向かいました。
①東北農業研究センター大仙研究拠点所内圃場での播種実演
「水稲無コーティング種子代かき同時浅層土中直播栽培」は無コーティングの「催芽種子」や根出し処理を行った「根出し種子」を市販化されている専用播種機で播種する直播方式です。詳細は下記のwebサイトを参照ください。
→水稲無コーティング種子の代かき同時浅層土中播種栽培マニュアル ver.6 | 農研機構 (naro.go.jp)
播種実演では、幅220cmのハローでの仕上げ代かきと同時作業で播種ユニット3条×2基の一つを条播、もう一つを散播に分けてその違いが見られるよう播種しました。播種ホースから落下し土壌表面に落ちた種子は、後付けの鎮圧ローラーで摺り込むように土中浅層に埋め込まれます。本方式は鉄粉やカルパー粉粒剤のコーティングが不要なのですが、その分、土壌の浅い位置に種子を播種することが求められ、ここがこの方式の大きなポイントになります。また、出芽・苗立ち向上のため「根出し種子」を用いることもポイントです。東北農業研究センター水田輪作グループ長国立卓生氏による作業工程の説明、「根出し種子」サンプルの展示があり、参加者からは荒代かきのやり方(基準)、土壌表面の水分状態、鎮圧ローラーの仕様、作業速度増加の可能性(現行は 2km/h)等についての質問が出され、意見交換が行われました。実演圃場は直前に立毛稲を青刈りして準備いただいた関係上、残渣が目立ち、決して播種に最適な状態とは言えませんでしたが、良好な覆土、不十分な覆土の両方の状況を見ることができ、視察の点からはかえって良かったようです。
②現地圃場見学
「大仙市横堀」進藤耕助氏圃場
東北農業研究センターで育成された多収でいもち病に強く耐倒伏性に優れる良食味水稲品種
「ゆみあずさ」を栽培しています。※品種詳細→ゆみあずさ | 農研機構 (naro.go.jp)
播種量 6kg乾籾/10aで苗立ち本数は123本/10a(推定苗立率52%)。播種後の水管理は10日間湛水し、播種4日目に除草剤プレキープ1キロ粒剤を施用。湛水終了後は7日間落水、再度湛水して播種後20日目に除草剤アクシズMX1キロ粒剤施用しています。稲の生育は7月上旬に最高茎数688本/㎡に達し出穂期は8月12日でした。視察当日は圃場の中央部で一部稲がなびいているのを認めましたが(倒伏指数1~2)、稈長は75cmと短く、倒伏による減収の恐れはないものと判断されました。進藤氏の話ではこれまで「めんこいな」、「秋のきらめき」、「あきたこまち」を栽培してきたが、「ゆみあずさ」に変えてからはいもち病の心配がなく多収で昨年は12俵穫れたそうです。今年は日照が少ないが11俵以上を期待しているということでした(写真参照)
「大仙市高梨」農事組合法人北川目ファーム圃場
同ファームの藤原 稔氏から農事組合法人の説明がありました。平成19年の水田経営安定対策制度を契機に結成、規模拡大により農業経営の安定化を図るとともに複合経営にも本格的に取り組み、農産物の収入アップと組合員労力の最大限活用で対価還元して潤う事業を展開することを目的としているとのこと。加工米含む水稲作のうち5.6haが直播栽培で、「ゆみあずさ」の鉄コーティング直播(2.3ha)と無コーティング直播(3.3ha)を実施。無コーティング直播のメリットとしては、圃場が軟らかく田植え機が沈む圃場においてもトラクタによる播種作業が可能であることだそうである。「直播面積拡大の可能性は?」という質問に対しては、水稲作への取り組みについては米価の低迷、最近の肥料価格の高騰等の条件もあり現在考慮中という回答があった。このところ食料品の価格高騰が著しいが、そんな中で価格的に比較的安定している米についても、引き続き低コスト化の維持をお願いしたいところですが、なかなか悩ましいところと感じました。
室内検討会場に移動する途中、「あそこ、あの圃場もうちのファームの直播圃場」と藤原氏から声がかかりました。
【室内検討会(大曲エンパイアホテル会議場)】
現地研究会はたいてい2時間程度の現地見学のあと、室内で同時間程度の座学を行います。今回も、市内のホテルにてパワーポイントスライドを映すなどして講師の方に技術説明を頂き、参加者からの質問にお答えいただきました。
④ 水稲無コーティング種子代かき同時浅層土中直播栽培技術について
ⅰ 水稲無コーティング種子代かき同時浅層土中直播栽培技術の概要
東北農業研究センター水田輪作グループ長 国立卓生氏
水稲無コーティング種子代かき同時浅層土中直播は別名「かん湛」と称し、コーティング作業を省略するとともに鉄コートのような表面播種とカルパーによる土中播種の中間に位置づけられる耐倒伏性品種を多く播いて安定多収を実現する技術である。播種は専用の播種機を用いハローによる代かき後の土壌表面に条播あるいは散播し、鎮圧ローラーで種子に泥を塗り浅層土中播種を実現する。作業精度を高めるためには播種時の土壌条件が重要であり、水面割合が50%程度の時に播種することを目途としている。種子は鳩胸催芽種子あるいは根出し種子を用い、葉いもち予防のためにルーチンシードFSを種子処理する。施肥量は移植並であり直播専用の肥料を使う。播種量は、はじめは7kg/10aとし栽培に慣れてきたら次第に減量する。播種後の水管理については播種後12~13日落水した方が苗立ちがよくなる。雑草防除は播種後落水の場合は出芽が揃った1葉期に一発剤を施用、播種後初期湛水の場合は播種時または直後に初期剤を施用し、落水―湛水後に一発剤を施用する。2021年現地の全刈収量では500kg/10a以上が確保されており、耐倒伏性多収品種の場合は700kg/10a越えも実現されている。経営計算で「あきたこまち」の移植栽培と「ゆみあずさ」の無コーティング直播を比較すると後者が前者より利益が16,000円/10a増加したという結果が出ている。生産者の感想では、良い点として、種子準備が簡単、快適、沈車しない、一人で作業できる、出芽が早く安心、悪い点としては、条間が広い、播種時の水量調節が難しい、鳥害、播種に気を使う、播種同時施肥・施薬ができないことが挙げられている。
ⅱ 苗立ちを向上させる「根出し種子」技術
東北農業研究センター水田輪作グループ 伊藤景子氏
これまでの経験によると無コーティング種子代かき同時浅層土中直播における苗立ち率は約65%でカルパー(73%)よりは低いが鉄コート(66%)と同等である。しかしながら低苗立ちの場合40%になったこともある。苗立ち不良になりやすい場所としては水口や畦畔際の漏水箇所や圃場内の排水不良箇所が挙げられており、多様な圃場条件における苗立ち安定技術の開発が望まれる。当グループでは根出し種子を開発して現地試験を行った結果、催芽種子に比べて2割程度苗立ち率が高まった。根出し種子の優位性は初期生育においても認められ、草丈、葉令、個体乾物重が催芽種子や鉄コート種子より大きくなった。出穂期・収穫期の調査では根出し種子の出穂期は鉄コート種子より4~5日早く、催芽種子より3日早まり、倒伏程度、収量、登熟歩合は同程度になった。根出し種子の作出法としては乾燥籾を15℃で5日間浸種した後に催芽器(30℃)で20時間催芽後に脱水して被覆して24時間置いて発根させるのが一般的に行われているが、浸種後の種子を蒸気式育苗器(30℃)で40時間処理することによっても作出できる。現地規模量の種子処理を行う場合、育苗器容量56箱・14段の場合は最大180kg(3ha播種相当量)処理可能であるし、催芽器容量150ℓの場合、最大60kg(1ha播種相当量)処理可能である。根出し種子適用の現状は苗立ちに不安のある生産者を対象とし、普及地域は寒冷地(秋田県、岩手県)、普及面積は39haである。今後の課題としては根出し種子の大量保存方法の検討がある。
ⅲ 水稲無コーティング種子浅層土中直播栽培の生育特性と収量性
東北農業研究センター水田輪作グループ 今須宏美氏
秋田県大仙市の14箇所の現地圃場で2019~2021年に実証試験を実施した結果から無コーティング種子代かき同時浅層土中栽培の生育特性と収量性について取りまとめた。初期生育の特性として出芽が早いことが挙げられる。播種後14日で1葉期となり、30日後の平均分げつ数は0.9~1.3本/個体となる。茎数の推移に関しては、播種量6~7kg/10aで苗立ち数100本/㎡、穂数500本/㎡が得られている。生育経過を移植と比較すると、茎数は多く草丈は大きめ、葉色は移植並で推移する。稈長と倒伏との関係では移植栽培の標準稈長を超えると倒伏の危険がある。出穂期は移植並~3日程度遅くなる。収量及び収量構成要素の特徴としては、穂数・籾数が多く、移植並収量~多収が得られる。品質の特徴としては整粒歩合が高く、タンパク含量も基準値以内であった。収量性の基準として600kg/10aを得るためには籾数35,000粒/㎡、穂数500本/㎡が必要なことが明らかになった。これを達成するための施肥量は移植と同程度であり、「あきたこまち」では窒素7~8kg/10a、耐倒伏性品種では8~10kg/10aと見積もられた。
ⅳ 実践している生産者からのコメント
進藤耕助氏:
無コーティング種子代かき同時浅層土中播種の良い点と悪い点について生産者の立場から補足したい。
良い点:田植え機だと沈車する圃場でも播種が可能、種子の補給が1回/haなので一人作業が可能、出芽が1週間と早く(コーティングでは2週間)雑草との競合上有利である。
悪い点:条間が広いと雑草が発生するが40cm以下なら大丈夫である、播種に気を使う点に関しては鉄コートでは播種部分が見えないが、無コーティングでは見える、播種同時施肥ができない点に関しては全層施肥(耕起時施用)で対応可能である。
藤原 稔氏:
栽培における特徴的な事項について述べる。
いもち病対策:「ゆみあずさ」のルーチンシードFS種子処理により大幅改善、オリゼメートの予防散布より省力と割安を達成しやすい。
根出し種子:催芽後水に浸けて余熱をとって脱水する「芽止め」と湿度と温度に考慮した風乾日数の策定が必要である。
播種作業:移植では4人作業であるが2人作業(播種オペレータ+水管理担当)でできる。
鉄コートとの比較:苗立ちが早く楽、700kg/10aが狙えて生産費が削減できる。
ⅴ 質疑・総合討議
質問
・播種作業に関しては、目標としてどの程度までの能率向上を考えておられるのか。
回答(国立グループ長)
今回紹介した播種機は、ハロー幅が2.2m、2連、6条用播種であるが、それとは別に大規模圃場用に折りたたみ式の3連9条用ハローの播種機の開発も進めている。6条用の作業能率は30a当たり約1時間、1ha当たり3時間ちょっとである。椛木さんから作業速度4km/hはできないかという質問があった。現在の作業速度は播種精度等から2.5km/hとしている。より高速作業となれば、それは水の問題とか、かなりシビアになってくるが、大規模圃場等への対応を考えて改良を進めてゆきたい。
質問
① 当該技術の悪い点として挙げている「播種同時施肥・施薬ができない」について、何か対応を考えておられるのか。
② 悪い点として「播種量が多すぎないか」と感じるがいかがか。
回答:②について(国立グループ長)
まず私から質問②の播種量について。播種量については、まず安定した苗立ち率を平均60%としている。倒伏や種子コストの問題はあるが、前任者の考えを踏まえて厚播きとしている。他の点播・条播等では、良食味品種を前提として3~4kg /10aであろうが、過去の全面播き散播ではどうしても株間が広がるということもあり、平均6kgであった。本技術では、例えば均平の取れていない圃場条件等による苗立ち率の低下でも苗立ち本数を確保するために、あえて多めの播種量として平均6kg前後としている。
回答:質問①について(今須グループ員)
播種同時施肥・施薬施肥について。まず施肥については、今年度広島県の直播で実績があり、トラクタの前に施肥ホッパをつけてやっていた。ただ、播きムラを考えると、先ほど進藤さんがおっしゃっていたように、あらかじめ全層播きするのが安全と考えられます。また、代かき同時播種作業でさらに同時施肥となると、マーカー操作に施肥作業が入ると複雑になりすぎるなど、生産者の方と話をしても問題があるのではと考え、現時点では取り組む予定はありません。ただ、同時施薬作業については生産者の要望も多いので検討中であり、今後の取り組みについては考えてゆきたい。
コメント(直播研究会・森田委員)
除草剤の同時施用について補足。移植では田植同時散布が歓迎されていますが、剤の残効性をある程度犠牲にしています。直播栽培でも播種同時散布の可能な剤がありますが、雑草を抑えるべき期間が移植栽培より長いので、直播栽培作業での同時散布では、どうしても薬剤の残効性が切れやすくなることが問題になります。会員企業で出席されている協友アグリさんからコメントはありませんか。
コメント(協友アグリ)
やはり直播作業同時の除草剤散布は田植え作業同時とは異なり相当過酷な条件となる。今の除草剤は、水の力で全面に広げて、その後に層ができるという作り方であり、代かき播種同時の場合は水がない状態であるから相当に過酷な条件であり、生産者の要望にスッと応えられる除草剤はないというのが現状です。ただ、今回のような状況でも使用できる除草剤への要望など生産者からの声を拾って、メーカーとして前に進めることは考えられますので、ぜひ引き続きこのような研究会でご協力を頂ければ有難いのでよろしくお願いします。
質問 根出し種子を考えたきっかけは何でしたか。
回答(伊藤グループ員)
きっかけは、ある生産者の方の失敗事例からです。種子の準備をしていた時に発芽はしていないのに発根している状態になったが、それを播種しなければならない状況だったので播種したら、なぜか苗立ちは大変良かったという結果でしたので、それがきっかけでした。
質問 根出し種子は単に苗立ちが良いことだけではなく、もっと奥が深いのではないか? 私が以前やった表面バラマキでは、成長後の株はグラグラしていた。今日の見た水田では皆がっちりしていて、根の張りが良かった。水稲の根は水があると伸びず、下が乾いていると伸びる。根出し種子はそういうところが効いているのではないか。発根や分げつ発生の問題、それと出穂期が早くなることなどの観察等をさらにされたらいかがかと思う。
回答(伊藤グループ員)
根出し種子を圃場に播種した後の種子根はほとんど伸びず、代わりに冠根がどんどん出てくる。その辺の詳細な研究はしていない。その後の生育、分げつ数などの調査では、特に他と異なることは無い。生育については、初期生育の葉齢は催芽種子よりも早い。この状況は播種後30日の苗立ち期でもその差は縮まらない。出穂期が早まったのは、生育が早まったことによると思われる。
質問者
移植と同じ日に播種すると、直播では出穂期が1週間遅れるのが定説である。分げつの部位別の発生経過とか、根量とか、を追ってみられたらどうか。最終的な葉数はどうなるのかとか、そうすると何が起こっているかが分かるので、そのようなことを進めて頂ければ有難いが。
回答者(今須グループ員)
移植と根出し種子については「ゆみあずさ」を使って、昨年は同じ日に移植と直播を行ったところ、生育調査では、出穂期は同じだった。一方、今年は移植より5日遅れで播種をしたら、出穂期は1週間以上直播のほうが遅れた。直播は種子の状態よりも、その後の栽培期間の気象条件の影響を受けやすいと思われた。ただ葉齢の調査はしていない。それは気になっているところなので今後しっかり調査してゆきたい。
コメント(司会・森田委員)
先ほど生産者から「もうかる話」ということが出ましたので、東北農研の笹原さんからコメントを
頂ければと思いますがいかがでしょうか。
回答(笹原グループ長補佐)
国立さんの資料20頁が私の作った資料で2020年の北川目の試験データからとったものです。
これは移植「あきたこまち」と直播「ゆみあずさ」の品種が異なるので、批判されましたが、直播には倒伏しない品種でないと本技術の良さは出てこないので「ゆみあずさ」の体系を採用し、そして北川目ファーム様にご協力頂いてこの結果を出しております。ただ、単価は年によって違い、このところ下がっています。最初、「ゆみあずさ」は業務用と位置付けていましたが、今年は加工米と
して位置づけることで、より「ゆみあずさ」は収支の改善が見られる可能性があります。さらに改善する方法としては、一つは倒れることなく増収させること、もう一つは作業効率改善です。机上計算ではありますが、播種作業時間を1ha当たり1.5時間にすることも可能だと思います。
以上で時間が来たので総合討論を終了しました。本技術は足掛け8年の開発を行い、東北地方を中心にすでに180haに普及しているとのことです。現在、折り畳み式代かきローターに対応した広幅播種機の開発も進めており、今後さらなる技術改良と普及拡大が見込まれます。当会としても引き続き情報の把握と皆様へのご紹介に努めてまいりたいと考えます。
【令和4年6月:水稲の苗立ち期にいろんな圃場を見てまわりました】
多くの地域で5月初めごろから直播の播種が始まります。播かれた籾は1週間から10日くらいで出芽が揃い、第1葉、2葉、3葉と出葉が進み、第4葉が抽出するころには第1葉の基部から分げつ(1号分げつ)が発生します。直播栽培にとって、播種後2,3週から1か月のこの時期(5月下旬~6月)が一番大切な時期です。当研究会でも、普及組織、農業団体、農業者の皆様から声がかかり、田植え長靴、カッパをバッグに詰め、東へ西へと走り回る忙しい季節になります。訪ねた現地での活動をいくつかご紹介します。
【長野県安曇野市・有明営農組合】:6月7日~8日
有明営農組合は信濃富士、有明富士とも呼ばれる有明山、そして雄大な北アルプスの常念岳を仰ぎ見る美しいあずみ野(歴史的仮名遣いではあづみ野)にある営農組合さんです。5月上旬に、「播いた田の出芽が思わしくない、見に来て欲しい」との要請を受け、研究会メンバー6名が「あずさ」「しなの」に乗り、松本経由で大糸線穂高駅に集合。さっそく営農組合員の皆さんの圃場に案内していただきました。今年は「コシヒカリ」のカルパーコーティング種子を用いて約13ha、66筆を5月5日から17日にかけて点播播種したそうですが、早い播種日のいくつかの圃場で苗立ちがさみしい箇所がありました(写真1)。
写真1 苗立ちの少ない圃場
苗立ち不良の場合、まず「播種した粉衣種子の健全性」を疑います。すでに営農組合でコーティング籾の残りを苗箱に播種して調査されており、とくに問題が無いことを明らかにされていました(写真2)。また、種子あるいはコーティングに重大な問題があるなら、他の圃場でも同じような苗立ち不良が起こるはずですが、必ずしもそうではありませんでした。これらから原因は粉衣種子ではないと考えました。
写真2 播種粉衣種子の出芽苗立ち確認(営農組合)
次に原因として次に考えられるのは「播種量の不足」です。これについて、営農組合への聞き取りから、播種作業後に準備した種子が大量に余ったような事実はなかったことが確認できました。また、圃場の観察では特定の播種条で苗立ちが少ない傾向はあまり見られず、苗立ち不足はランダムに発生していました。ですので、多少の差はあっても、全体あるいは特定の播種条(播種ユニット)での極端な播種量不足はなかったと推察しました。もちろん、カルパーコーティング時の湿度や同時被覆資材の性質によってはコーティング種子の仕上がりにムラが生じ、播種時に一時的に詰まるなどして部分的に繰り出し量が変動する可能性も無いとは言えませんでしたが、全体として播種量には大きな問題は無いと考えました。
さて、そうなると、播種されたであろう種子の状態を調べる必要があります。さっそくメンバーは圃場に入って土を探ってみました。その場ではなかなか種子を見つけることができませんでしたが、家に持ち帰った土サンプルを丹念に調べると、やや少なめではあるが播種種子が確認されました。それらの種子は胚乳が腐っていたり、いったん発芽した芽が土中から出る前に死んでしまっていることがわかりました(森田委員調べ)。
播いた種子が順調に出芽するためには、ある程度の温度が必要です。実は、事前に今年の安曇野市(アメダス「穂高」)の播種~出芽の気象状況を調べたところ、早い播種期の5月7日~11日について、播種から10日間の平均気温は15.3~16.4℃と、過去5年間の中で最も低い厳しい温度条件であったことが判明しました(表と図1)。また、播種後の落水出芽期間中に数回の降雨もありました。これらのことから、苗立ち不良の要因として、播種後の低温の影響、さらに降雨による地温低下の影響が考えられました。この場合、低温や降雨の影響は、出芽の遅れと酸素不足による種籾の土中での座死、そして除草剤の影響の二つが考えられます。営農組合で使用された除草剤はイネの出芽前や出芽時に処理する場合は、落水状態での散布が注意点として求められるものでしたので、排水不良の水がたまった部分において低温で出芽が遅れた個体に除草剤の影響が出た可能性も考えられました。
表と図1 播種日から10日間の気温比較(アメダス穂高データから下坪顧問作成)
以上、結論として、早い播種期に発生した苗立ち不良は播種後の低温と降雨による影響が主要因と考えられますが、それ以外にも、排水不良、除草剤の影響、部分的な播種量の多少なども可能性があり、これらが複合的に絡んだものと推察されました。ただし、早い播種期でも苗立ちが良好な圃場もあり、そのような圃場は林や家屋に囲まれて風当たりが弱いなど、微気象的な条件が影響したものと思われました。今後の留意点として、播種に際しては気象庁の提供する「2週間気温予報」を活用するなどして、播種後から出芽までの天候不良が予想される場合は播種量を増やす、排水溝を施すなど落水出芽の徹底を行うなどの対応が考えられました。また、カルパーコーティング作業時の湿度等気象条件、同時被覆資材の使用とコーティングの仕上がりについても留意する必要があります。
2日間にわたり圃場を見回りましたが、苗立ちが良好な圃場も多く(写真3)、また、雑草防除もよくできてた田がほとんどで、本年の生育初期の不良気象下でも営農組合の技術力の高さが示されていました。苗立ち不良田では多少の減収が見込まれますが、再移植の手間や移植遅れの減収を考えると、その必要性は少ないと判断しました。このようなことを営農組合の皆さんとともに2日間、調査・議論して考えました。生育ステージはほぼ4葉期に達し、分げつも出始めており、これからが茎数や生育量を確保する時期になります。条件の良い圃場では深水管理を試みるなど、今後の栽培管理を話し合って日程を終えました。
蛇足:最後は穂高駅近くの蕎麦屋でもりソバをお腹に納めました。ここはソバの量がすごく多く、不用意に大盛りを頼むとエライことになります。味もさることながら、主食としての穀物の本道を行くその姿勢に思わず拍手したくなるお店です。
写真3 苗立ちの良好な圃場
【宮城県加美町・色麻町 JA加美よつば直播栽培研究会】:6月20日
東北新幹線の古川駅から山形方面へ車で30分、奥羽山脈に向かってなだらかな丘陵地や扇状地が続く大崎平野の西部に加美町(かみまち)、そして色麻町(しかまちょう)があります。清流「鳴瀬川」が地域のほぼ中央を流れ、どこからでも広く明るい平野と奥羽山脈の特徴的な山々が一望できます。この地域にある加美よつば農業協同組合(JA加美よつば)とその組合員で結成された直播栽培研究会からの依頼により、同地で開催される直播水稲の現地検討会に巡回指導員として当会のメンバーが参加し、各圃場において生育状況、雑草等管理状況について調査したとともに助言・指導を行いました。時期的には播種後1か月から1か月半に概ね相当していました。多くの圃場の中から、現地の直播栽培研究会が選定した5カ所6筆を巡回視察しました。以前から当研究会が入っている地域ですが、ここ2年間はコロナ禍のために巡回指導は実施されず、久しぶりの催しとなりました。
A. 苗立ちと生育状況
各圃場でサンプリングした標準的な個体の生育状況を表2に示しました。これらは全てカルパー粉衣籾を点播播種したものになります。鉄コーティングで品種が著しく異なる(「ハイブリッドとうごうシリーズ」)圃場がありましたが、この表から除いています。
播種は5/3~9にかけ行われましたが、出芽苗立ちはB氏圃場とC氏圃場がやや少なめでしたが、全体としては良好でした。表中ではD氏圃場が最も生育が良好で、葉齢で1程度他よりも進んでおり、第4葉基部からの分けつも出現しつつあり、個体の充実度も高いように感じました。直播水稲の分げつは条件が良いと不完全葉の次に出葉する第1葉の基部から発生します。これを1号分げつと呼び、以下2葉基部からは2号分げつ、3葉基部からは3号、4葉基部からは4号、と出葉が進むにつれて次々と分げつが発生します。1号から4号くらいまでの分げつ(下位葉の分げつ)は充実した大きな穂になりやすく、これに主稈の穂が加わることで稲株の籾収量の大きな部分を担います。水稲直播ではこれら下位葉の分げつをきちんと確保することが安定収量を得る上で大切です。この点で、D氏圃場は生育良好と感じられました。ついでA氏圃場もやや生育が進んでおり、この時点で第3葉基部からの分げつがほぼ出現していました。他の方の圃場も葉齢進捗に合わせて1号、2号等の分げつが順調に出現していましたので、全般にとくに問題はありませんでした。続いて、各圃場の特徴を簡単に紹介します。
〇A氏圃場
苗立ちは良好で圃場内の苗立ちむらも無く、すでに述べたように生育も良好でした。
〇B氏圃場
ここでは、「ひとめぼれ」圃場と並んで、業務用米として最近作付けが増えつつある良食味の多収品種「つきあかり」が試作されています。「つきあかり」は農研機構が育成した早生品種ですが、栽培試験データが少ないこともあって、湛水直播栽培への適応性はまだよくわかっていません。実は、B氏から「つきあかり」直播試作の相談を受け、播種前にこの品種に関する資料や栽培上の留意点などを事前に送っており、3週間前の5月30日にはメンバー二人が訪問して調査を行いました。その際の調査結果では、葉齢は「つきあかり」「ひとめぼれ」とも同程度であったが、草丈は明らかに「つきあかり」が長く、第1葉基部の分げつ芽は「ひとめぼれ」では確認ができたが「つきあかり」では確認できませんでした。「つきあかり」は穂重型の品種で、移植栽培でもやや穂数が少な目であることから、第1葉基部の分げつ発生が少なかったり出現しなくなったりすることを少し心配しました。除草剤散布との兼ね合いもあるが、落水や浅水管理で第1葉の分げつ発生を促すことを助言しました。今回の調査ではその後順調に1号分げつ、2号分げつが発生したことが明らかになり、ほっとしました。草丈はやはり「つきあかり」が隣圃場の「ひとめぼれ」よりも長い傾向を示していました。B氏は今後も浅水管理を行うことでさらに下位分げつの確保を確実にする予定だそうです。今後の推移が楽しみです。
写真4 B氏の「つきあかり」(左側)と「ひとめぼれ」(右側)の直播圃場。
〇C氏圃場
播種機の繰り出し設定が少なめで、3㎏/10a播種の予定が2.5kg/10aとなったため、やや少ない苗立ちとなったが、収量には影響しないと推察されました。今回巡回した「ひとめぼれ」の中では草丈が最も短く、反面、分げつはきちんと出現しており、いわゆる「ずんぐり苗」の形状を示し、下位葉の退色も少ない良い苗質でした。今後が期待されます。C氏ご自身は直播栽培の経験が2年目で、次に記載するD氏の教えや助言を受けているそうです。現地の研究会内部で、ベテラン会員による初心者の方への指導や協力がうまく進んでいることに感銘を受けました。
〇D氏圃場
苗立ち、生育、共に極良好でした。2年前に訪問した際と圃場が少し移りましたが、この方の圃場はどれも生育が立派で、いつもながら感心させられます。
写真5 D氏圃場の様子
〇E氏圃場
民間育種事業者の水稲生産技術研究所が育成したハイブリッド品種「ハイブリッドとうごうシリーズ」を鉄コーティングで5月9日に播種されたそうです。播種量は2kg/10aと少な目で、そのためか苗立ちもやや少なめでした。この品種は概ね「ひとめぼれ」等に比べ玄米千粒重が重い(籾が大きい)特徴があり、同じ播種量の設定にすると播種粒数がやや少なめになると推察されました。B氏が試作されている「つきあかり」も同様の特徴があり、今後はこうした点に留意する必要があると思われます。ちなみに草丈は25㎝、葉齢は6.1でした。
B.雑草防除関連事項
〇A氏圃場
【除草剤の使用履歴】5月25日(キマリテ(イネ1葉~ノビエ3.0葉 イプフェンカルバゾン+テフリルトリオン)
【雑草の状態】除草効果良好:雑草ヒエ・なし(剤処理時の推定葉齢・3.2で晩限超えの懸念がありますが除草効果は出ています)、局所的にクログワイあり、アシカキとチゴザサが畦畔から侵入しはじめています。
〇E氏ほ場
【除草剤の使用履歴】播種同時:ジカマック500粒(ピラゾレート+ベンゾビシクロン+メタゾスルフロン) 5月25日:ゲパード(イネ2葉~ノビエ4.0葉:ダイムロン+ピラクロニル+ベンゾビシクロン+メタゾスルフロン)+6月○日:ルナクロス1キロ粒剤(イネ3葉~出芽後50日・ノビエ除く シクロピリモレート+テフリルトリオン)
【雑草の状態】(「ハイブリッドとうごうシリーズ」のほ場)除草効果不良:ほ場中央部にイヌホタルイ草丈約20cm・茎数10数本から発生初めまで多数残存、後期剤の効果発現(白化)中にもかかわらず枯死に至らないとみられます(図-1)。ほ場周縁部にイヌホタルイの他にタイヌビエ、イボクサ、タウコギ、タカサブロウ、チョウジタデ、ヤナギタデなどが発生しているので、ほ場内ではこれらは抑制できているとみられます。イヌホタルイの残存について、現場では「越冬株の可能性」と申し上げましたが、採取した試料をみたところ実生株であった(図-1)ことから、代かきから播種までの9日間でタイヌビエ推定葉齢0.6であったので、イヌホタルイ葉齢1.0を超えていた可能性があり、これが要因の一つと思います。
〇B氏圃場
【除草剤の使用履歴】5月20日:イッポンフロアブル(イネ1葉~ノビエ2.5葉 ピラクロニル+ブロモブチド+ベンスルフロンメチル)
【雑草の状態】除草効果良好:(剤処理時のタイヌビエ推定葉齢・2.4で晩限内) 「イッポンフロアブル」の残効がすでに消失しており、タイヌビエ・3葉、オモダカ・矢じり葉1、アゼナ、トキンソウ・3対、ヒナガヤツリ(?)・6cm、イボクサ・再生がみられます(図-2)。あと発生の個体数が多くないため後期剤の要否は微妙な所(今後の推移次第)です。
〇C氏圃場
【除草剤の使用履歴】5月18日:ジャスタフロアブル(イネ1葉~ノビエ3.5葉 シクロピリモレート+トリアファモン)
【雑草の状態】除草効果良好:雑草ヒエ・なし(剤処理時の推定葉齢・2.0で晩限内)、オモダカ・多発田のようですが線形葉段階にとどまっており本年は対策不要と思います。次年度はオモダカの発生を意識した防除計画をお願いします。
〇D氏ほ場
【除草剤の使用履歴】5月22日:ジャスタフロアブル(イネ1葉~ノビエ3.5葉 シクロピリモレート+トリアファモン)
【雑草の状態】 除草効果良好:雑草ヒエなし(剤処理時の推定葉齢・3.0で晩限内)、藻類(アオミドロ?)やや多、畔からアシカキ茎長約1mで侵入やや多なので要注意。
以上のように、イネの生育、雑草防除の様子などを現地の直播研究会の皆さん、JAの皆さん、資材メーカーの皆さんと一緒に確認しつつ圃場を巡回しました。この時期は概ね梅雨真っ最中で雨具は手放せないのですが、当日は爽やかな晴天に恵まれました。JA加美よつばでは安全安心の農産物生産にとくに力を入れておられます。水稲直播においても難しい有機栽培や、無農薬栽培に挑戦される方もいらっしゃいます。機会がありましたら、そのような取り組みもご紹介出来たらと思います。
【令和3(2021)年度水稲直播研究会 講演会を開催しました】
水稲直播研究会は、水稲直播栽培の普及に資するため、毎年、現地指導、現地研修会への講師派遣、研究会と地元の関係機関の共催で現地検討会・現地研究会等を開催しておりますが、ご案内のとおり、令和3年度は、新型コロナウィルスの感染拡大のため、現地指導等も限られ、現地研究会もコロナの緊急事態宣言のため開催出来ない等所期の活動が十分行えない状況でした。
一方、水稲直播に係る新技術の開発・現地での実証等や関係資材等の開発は進んでおります。そこで、会員等を対象に、水稲直播栽培に関する最近の研究や施策等に関する情報を提供し、会員等の今後の活動に資する目的で、講演会を開催いたしました。
講演内容の詳細は会誌45号にご執筆いただく記事をご参照ください。ここでは当日の概要を報告いたします。(文責:水稲直播研究会)
日時:令和4年1月20日 13:30~16:30
場所:赤坂インターシティコンファレンス(会場と参加者を結んだリモート会議で実施)
参加者:講師5名、農水省3名、農研機構3名、会員企業等45名、生産者20名
水稲直播研究会9名 計85名
議事次第 (進行:水稲直播研究会戸谷 亨事務局長、司会:松村 修中央委員)
1.開会挨拶
水稲直播研究会 森田弘彦会長
水稲直播研究会はこの2年間コロナ禍で現地訪問等の活動が大幅に制限されてきたが、その状況下でも研究・技術開発が進められていることから、今回会員相互の情報交換のための講演会を会場とネットによるハイブリッド形式で実施することにした。
この試みは昨年から行っているが本年はとくに生産者の方々にも参加していただいており、この中で準備に当たられた5人の講師ならびに事務局関係者に御礼を申し上げる。
年が明けて北日本豪雪やトンガの海底火山噴火等の不安材料も出てきているが、農業生産を支える水稲直播の着実な発展のために当研究会では新たにホームページを立ち上げて技術情報の刷新を図る所存であるので今後ともご協力をよろしくお願いしたい。
2.講演1「令和4年度当初予算及び令和3年度補正予算の概要」
農林水産省農産局穀物課稲生産班 河野 研課長補佐
資料では稲・麦・大豆に関する予算を全般的に掲載しているが、本日はこの中で水稲直播に関わるものとして3事業についてご紹介する。
第一は新市場開拓に向けた水田リノベーション事業。水田農業を輸出や加工品原材料等の新たな需要拡大が期待される作物を生産する農業へと刷新(リノベーション)するために予算規模420億円で実需者ニーズに応えるための低コスト生産等の取組を行う農業者への支援等を行うもの。
支援の要件として低コスト生産等の取組を行ってもらう必要があるが、その取組メニューの一つとして水稲直播栽培がある。
二番目は産地生産基盤パワーアップ事業。園芸作物等の導入により収益力強化と輸出等の新市場獲得に取り組む産地に対して予算規模310億円で農業者が行う高性能な機械・施設の導入や栽培体系の転換等に対して総合的に支援するもの。
水稲直播との関連では上記の目的に沿った活動の中で実施するレーザーレベラーや直播機の導入等が考えられる。
三番目は稲作農業の体質強化に向けた超低コスト産地育成事業。輸出等の新たな需要に対応するために9600円/60kg以下など大幅なコスト低減を目指す産地に対し、生産コストの現状、コスト低減に向けた取組状況の把握、課題抽出、低減対策の検討等の取組を総合的に支援するもの。
具体的には地域の農業者や行政、農業団体、専門家等によるコンソーシアムによる現状分析、取組方策、実証および人材育成に関する提案に対して毎年1000万円を上限として最大3年間の支援を行う。
質問:国際競争力の強化に関してはその準備段階に対する支出も要件の中に入っているかどうか。
例えば商社の方に来て頂いて輸出のための販路拡大など指導して頂くことも可能か。
回答:本事業はコメのコストを下げる事業であり、下げた結果として輸出に繋がることはあっても、輸出の取組に対して直接支援するものでは無い。
ただ政策的には、本事業を使ってコストを下げて輸出に取り組んでもらいたいという意図はあるので、配布資料に書いてあるとおり、輸出米を1ha以上作付することを要件の一つに入れている。
3.講演2「関東地方の水稲直播栽培の状況と課題」
宇都宮大学農学部付属農場 高橋行継 教授
全国の直播面積は平成16年から令和元年までの15年間で約2.5倍になっているが、地域別の直播普及率で比較した場合、関東東山は0.7%で東北、北陸、東北が3.7~5.4%より低い状況にある。県別の栽培面積(湛直、乾直別)では茨城県(湛:147ha、乾:253ha)、栃木県(湛:107ha、乾:284ha)、群馬県(湛:32ha、乾:10ha)、埼玉県(湛:140ha、乾:58ha)、千葉県(湛:116ha、乾:219ha)となっている。
関東地方で直播が普及しない理由としては、①園芸等との複合経営が大きく、稲作のウェイトが小さい、②周年栽培が可能で稲麦二毛作が存在する、③大都市近郊農業で経営規模拡大、農地の集約が難しい、④行政が普及に力を注いでいない、⑤高齢化、保守性、過去の失敗が影響している等が挙げられる。
このような状況の中で効果的な普及法としては、①地域の実情と農家の「本音」を知っておく、②現地に実験・展示圃を設定してオピニオン・リーダー適農家に技術を実践してもらう、③新技術を正確に身につけてもらい必ず成功させる、④成功例を「口コミ」で仲間内に広めてもらい、技術の普及を促進させることが重要である。
直播栽培は稲作の省力・低コスト化に向けた切り札として必要な技術の一つであると考えられるので、今後の普及拡大に期待したい。
質問:私共は現地で長くやってきて、成功して定着した所も、立ち消えた所もある。現地で3年ぐらいカルパーコーティングから生育3~5葉期頃までを教えると成功する。営農組合・研究会等の組織ができた所は定着するが、個人の大規模はうまく行かない。そういう意味で、ねらいが重要と思うがいかがか。
回答:おっしゃる通り、対象をしっかり絞るのが重要で、大規模な生産集団が重要と考えている。1年で失敗するとダメで、3年ぐらいはやって定着させることが大事である。
質問:身につまされるようなお話をして頂き有難うございました。乾田直播が増えていることと、50年前に乾田直播に取り組んだものの失敗してこりたという2つの話があったが、何が解消されて現在の乾田直播増加に至ったのか、また、各県ごとに乾田直播のかたちが違うことはあると思うが、それらに対して指導ができているのか。
回答:最近は除草剤のコントロールが良くなったことが大きく、結構増えている。昔は失敗の多かったが、埼玉県鴻巣市では個人で乾直でも湛直でもやっているが、乾直では3月中旬から始め、湛直は5月からというように期間が長くとれるようになったことも有利に作用している。各県の取り組みは確かに違うところもあるようだが、そのことについては今後よく調べてみる。
4.講演3「ドローンを活用した水稲直播栽培」
石川県農林総合研究センター
農業試験場育種栽培部作物栽培グループ 宇野史生専門研究員
農研機構生研支援センターの革新的技術緊急展開事業の支援を受け、石川県を中心とし
た国産米国際競争力強化コンソーシアムが実施している。
散布用ドローンを多機能化して水稲直播に利用することを目指している。ドローン播種に当たっては種子の土中打ち込み、均一な条播によるによる倒伏軽減、自動走行・低空飛行による播種精度向上のための改良を行っている。
播種機の仕様としては、播種機重量6kg、播種幅1.2m(30cmx4条)、種子ホッパー容量8L(6~7kg種子)、飛行速度秒速4m=時速14kg、10a当播種時間6分(播種量5kg/10a)、1バッテリーでの播種面積/時間 15a/9分、1日の播種可能面積 3haである。
留意事項としては、①催芽籾を十分乾燥させたものを用いること、②播種時のほ場条件と
して土壌が柔らかいこと(代かき直後~3日後)および水溜まりが少ないこと(完全落水)、③播種後の水管理としては落水状態を維持して出芽を促し、1葉期に入水して一発処理除草剤を散布することが挙げられる。
これまでに石川、佐賀、青森県の経営体で実証試験を行い、ほ場内播種機を用いた場合と同様の収量が得られている。問題点と今後の対応としては、鳥害関連要因(田面露出による土壌硬化や滞水による播種深度不足、入水遅れ)の解消、ほ場の水管理方法、コーティング種子を用いるための播種機改良がある。
質問:ドローンで打ち込み直播とは大変なことにチャレンジされているが、1回に打ち出す
種子は何粒ほどで、打ち込まれた種子の幅は、写真からは分からなかったが、従来の条播
よりは広く見える。今の湛直点播に比べるとばらついているようだが。
回答:打ち込む種子数については、ねらいの苗立ち数が100本/㎡で苗立ち率が半分なの
で、200粒/㎡ぐらいにしている。条間は30cmだが、写真では少し広くなっている。
コメント:倒伏を気にしているが、できるなら点播にしてほしい。がんばって頂きたい。
5.講演4「雑草イネ・漏生イネ対策 ―直播栽培では?―」
農研機構中日本農業研究センター
水田利用研究領域作物生産システムグループ 大平陽一グループ長補佐
雑草イネの特徴としては、①脱粒性を備えていることが多い、②玄米は着色しているこ
とが多い、③栽培品種より長稈であることが多い、④形態・色が栽培品種と同程度の擬態
型も存在することが挙げられ、根絶しないと再び増える危険があるので発生したほ場では
直播栽培をしないのが原則である。移植栽培を行う場合は有効な除草剤の体系処理を行う。
漏生イネとは栽培品種がほ場に残留して翌年発生するイネのことを指し、直播栽培でとく
に問題となる。漏生イネの発生を防止するためには前作で倒伏させない、適期刈取りを行
うことが重要であり、耕種的方法としては暖地・温暖地では秋耕により発芽を促進して冬
季の低温で枯死させること、寒冷地では秋耕せず圃場表面で種子を越冬させることが勧め
られる。湛水直播では深耕と丁寧な代かきで種子を埋没させて出芽を阻害する。
また、暖地・温暖地では晩播により漏生イネを十分に発生させて除草剤や耕起により防除した後に直播栽培を行う方法もある。化学的方法としては収穫後に石灰窒素(シアナミド)により漏生イネの休眠覚醒、発芽能力の低下、死滅を行うのも効果的である。この場合散布後に耕起する場合は2週間以上経過してから行うことを推奨する。ほ場条件も重要であり、石灰窒素散布後に降雨等により湛水したり、また稲ワラの存在で効果が落ちることも留意事項である。
質問:北陸のような重粘土壌では、ワラを秋にすき込むことが春先の土壌還元防止等に有効であると聞いたことがある。ワラ処理、石灰窒素施用、漏生イネ抑制の3つの間の関係をどのように理解したらよいのか。
回答:地域によって対策は異なると考える。北陸の場合漏生イネ対策としては秋に起こすと効果が低い。
秋起こししたい場合は石灰窒素を撒いて2週間以上経ってから耕起するのが望ましい。ワラがあると石灰窒素の効果が落ちるということは、ワラに石灰窒素が付着して土壌表面の漏生イネに直接作用しないからと考えている。
6.講演5「現場にみる直播栽培での植物防疫の課題」
水稲直播研究会 黒須泰久中央委員
水稲直播研究会は 1985年(昭和60年)に農林水産省の指導のもとに会員制の研究会として発足し、それ以来カルパー粉粒剤を利用した湛水土壌中直播栽培を中心に指導・普及に努めてきた、これまでに得た種々の直播栽培に関わる植物防疫の課題についてお話する。
直播では移植と比べてイネの生育が遅れるので、イネミズゾウムシ、イネドロオイムシ、葉いもちのような初期病虫害が問題になるが、各県とも発生予察による防除体系がとられていること、種子処理用の殺虫剤・殺菌剤の湿粉衣ができるようになったこと、水稲病害抵抗性品種の創出により問題視することが少なくなってきている。
西南暖地で被害が大きいスクミリンゴガイについては銅剤による産卵抑制、殺貝剤、耕起による破砕、石灰窒素、網による侵入阻害等の方策がとられている。
鳥害については糸張り(カラス、カモ)、覆土(スズメ、カワラヒワ)、ほ場集積による団地化、落水出芽(カモ)、目玉風船(カラス)、カラス用ガウス磁石、忌避剤等が有効である。
雑草防除に関しては雑草の発生予察技術ならびに直播用除草剤の開発と利用が進行しており、とくにカルパー粉衣湛水土中栽培では初中期水管理と関連した防除法が確立している。
これ以外の湛直・乾直においても方式別に播種同時、初中期、中後期除草剤の組み合わせ処理が実施されている。
質問:移植栽培の場合は従来航空防除がスケジュール化されていたが、農薬の箱施用技術が開発されたことにより病害虫防除もかなり簡単にできるようになった。
直播の場合これに該当するものとしては種子粉衣技術が進展しつつあるようだが、移植の場合と同等の効果が得られるかどうか、どう評価すればよいのか。
回答:どう評価というのは難しいが、どこまでできるかと言えば、生育初期に起きる病害では葉イモチ、紋枯れ、白葉枯れの殺菌剤は、種子が粉衣できれば十分できるだろう。
それから虫害ではアドマイヤーのような殺虫剤がイネミズゾウムシやドロオイムシの食害防止に効果がある。スクミリンゴガイ対策としては殺貝剤や石灰窒素が効果がある。
鳥害にはキヒゲン(チウラム)のような忌避剤が有効であるが、残念ながら湛水直播では催芽種子を使うので登録上使えない。チウラムが稲に害を及ぼすことになっている。
質問:今の話で、播種機の場合は殺虫・殺菌剤の側条施用が可能だが、ドローンでは無理なので、代わりの方策はないか。
回答:現在、ドローンではできない。農薬についても同時散布のアイデアは出ているが、現在は、種子コーティングの方法が良いのではないか。
7.閉会挨拶
水稲直播研究会 平岩進顧問
本日は、貴重なご講演を頂いた講師の方々、この会場またはWEBでご参加いただいた会員、そして生産者の方々には、厚く御礼を申し上げます。
先ほど森田会長からあったように、コロナの影響でこの2年間、活動が殆どできない状態でした。
その間に、研究会では新たなホームページを作成しており、近々公開する予定です。その中には最新の情報や、皆さんからのご意見。ご質問をお聞きするコーナーもあります。
これからも私共のホームページをご活用いただきますようお願い申し上げます。本日一部の手違い等もございましたが、ご清聴、誠にありがとうございました。
【有明営農組合における深水管理ほ場の収穫前生育調査とサンプリング(2021.10.10)】
水稲直播研究会の下坪訓次顧問と椛木信幸中央委員の主導で「有効茎数決定期前後に、無効化する弱小分げつ発生抑制のための15cm程度の深水管理(水稲湛水土壌中直播栽培の手引き)」を、湛水土壌中直播栽培に精力的に取り組む長野県安曇野市の有明営農組合の直播田で実施しています。
令和3(2021)年には点播の「コシヒカリ」直播田で6月中旬から10日間ほどの深水処理を行い、9月24~25日に同営農組合のご協力のもと、収穫直前のイネの生育調査と収量など計測用のサンプリング(試料採取)を行いました。
1.ほ場調査(写真1)
本年は苗立ちのばらつきが大きく、苗立ちが少ないほ場での生育経過が心配されたものの、現段階ではいずれの圃場でも稲が全面に繁茂しており、移植ほ場との区別がない状況でした。
稈長は昨年(80~85cm)よりやや長く90cm以上伸びたほ場では少~中程度の倒伏が見られたものの(表1参照)、その始まりは出穂後の遅い時期とのことで収量に影響する程度は小さいと判断されました。
ほ場4(直播慣行区:稈長84cm)
移植ほ場(ほ場1、営農組合管理:稈長94cm)
ほ場5(直播慣行区:稈長91cm)
ほ場 5(直播深水区:稈長95cm)
写真1 有明営農組合およびその近傍における収穫前のほ場状況(番号は表1を参照)
サンプリング調査(表1)
表1に示したほ場で、イネの形態調査用として、ほ場2、ほ場6、ほ場7、ほ場4の慣行区および深水区の6圃場から3株を抜き取り、また収量構成要素調査用としては全圃場から3株を刈り取り、それぞれ持ち帰って調査することにしました。詳細は調査結果が出てから報告する予定です。現時点の特記事項としては栽培法による倒伏状況の違い(カルパー、移植、水管理)、周辺の移植田から伝播したとみられる穂いもちの発生が挙げられます。
表1 サンプリングを行ったほ場とイネの生育状況
写真2
直播栽培ほ場でのイネ株(点播)を選定・採取する水稲直播研究会の下坪訓次顧問(手前)と椛木信幸中央委員(奥)